日本のアーチストのコンサートに出かけた。
一般に知られる歌手の生ステージに行くなんて、物心ついてから
あったかなかったか?
ほとんど記憶がないが、今回はどうしても、その人が元気なうち
にと思い、なんとかチケットを入手した。
喜寿を迎えたという、布施明さんの60周年記念コンサート。
さん付けにしているのは、そのステージで彼がバンドのメンバーを
紹介する時に、「さん」付けにしていたのが印象的だったから。
呼び捨てにして、親近感を出す人も多いが、布施さんは、そんな
ところも決め細やかに神経を使う人だということを学んだ。
さて70代後半となれば、その声の艶は?声量は?
CDや放送ではもちろん抜群の歌唱力に触れてきたし、最近も
衰えていないことを知ってはいたが、それを確かめたかった。
そして60周年という節目をどのように表現するのかと。
テーマは「VOYAGE~ボヤージ」。旅、出航。
人生は船でめぐる旅のようだということだろうか。
とにかく、久しぶりに胸を躍らせ、会場に向かった。
さて、何度も聴いてきた名曲はもちろん、「独白」なる
オリジナルのコーナーも含め、約90分余り、途切れなく
布施さんは表現豊かに歌い続け、会場を魅了した。
トークも品良く、あたたかく丁寧な話し方で、歌の間を
優しくつないだ。
子どもの頃から大ファンだったというわけではない。
もちろん親しんでいたし、尊敬もしていた。
でも、テレビの世界の人という距離感。ここ何十年も
その活動ぶりに触れることはなかった。
半年ほど前の歌番組で、変わらぬ素晴らしい歌唱力に
振れ、元気なうちに一度は生を聴きたいと思っての
今回のコンサート。
予習ということで、何度も何度もベストアルバムを聴き、
当日も聴きながら歩いて会場に向かった。
その中で一番気に入っていた曲「カルチェラタンの雪」
の演奏がはじまったときには、さすがに目頭が熱くなった。
よく、よく歌ってくれました。
雪降るパリの街角を肩寄せあって歩くカップルの姿が
くっきりと浮かんだ。
そう、布施さんの歌は、情景がくっきり浮かぶという
点が特徴で、素晴らしいところだ。
何千人という観客ひとり一人がそれぞれの歌に
自分の人生を重ねていたことだろう。
そして、
おなじみ「マイウェイ」がクライマックスで歌われた。
このとき、布施さんは衣装を白のジャケットに変え、
まさに今回のステージのテーマにマッチしたその曲を
唄い始めた。「今、船出が近づくそのときに・・・」
会場は大いに盛り上がった。
声の艶、声量。まったく衰えていない。つややかに
伸びて、聴く人の心に染み入る。
そして、その豊かな表情。
今回最上階の席であり、オペラグラスも持参していなかった
ため、顔の表情までは見えなかったが、手足動かし全身をフルに
使って歌っていたのも大変印象的。
身体から歌っていた。
ふと、フジコヘミングさんが遺した、「魂の演奏」という言葉が
蘇った。
布施さんもその世界の人だ。
心が伝わる。
愛を感じる。
今回学んだこと。
どんなことがあっても、一歩前に進む。
自分を信じて進む。
そして、相手が喜ぶことをする。
自分らしく生きる。
それがいいのだということを、
今回改めて教えてもらった。
15年後。今の布施さんの年齢になる。
そのとき、あれぐらい元気に演奏できていたら、
そうあるようにがんばらねば。
できるよ、きっと。
「平に平和に生きることができ、細くてもいいから
歌い続けることができたら・・・」
と、最後にこんな言葉を遺した布施さん。
そう、平和な世界で好きな歌を歌い、聴き・・・が
できるのが一番の幸せなこと。
さあ、15年後も生きているならば、細くてもいいから、
丁寧に自分らしく存分に生きたい、演りたい。
改めて布施明さんのますますの、素晴らしい歌を
これからも期待し、応援していきたい。
BON VOYAGE。素敵な人生の旅を。
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