何を叩く?思いがけぬ天からの贈り物

IMG_2115
前日のブログに登場したAlexaはこのライブハウスと関わりが深い。ここはニューオーリンズジャズファンならば、知らない人はいないPreservation Hall。
以前、たまたま出張先のホテルのエレベータ内で遭遇したミュージシャンもここの育ちで、ここで演奏するプレイヤーたちは来日回数も多く、世界中にファンがいる。
ここで演奏を聴きたいと言えば、わが友は指一本でここのマネージャーにコンタクト。TOKYOからの友達MASAKOが行くから頼む。ということで、連日3部制のライブがいずれも長蛇の列であるにも関わらず、予約客と同じく行列をパス、さらに身内しか座れない特等席に座ることを許される。特等席とは、プレイヤーたちに一番近く、彼らの演奏の横顔が見える
本当に特別席だ。通常は前からしか見えないが、横から、後ろからバンドメンバーの演奏風景と音と汗と呼吸を誰よりも一番感じることができる場所だ。
演奏前にその席に通され、ちょっと緊張しながら座る。まだバンドメンバーもそろっていない。気が付くと、私が座った横に、初老の紳士が静かに座っていた。もしかして、彼が今日演奏するのかな?そう尋ねると静かに「そうだ」と答えたが、どうも喉の調子が悪いようで、なんども喉の調子を伺っている。演奏前なのに。心配になり、わがドラえもんの福袋?のごとくいろいろ入っているマイバッグを探り、キャンディをみつけ、彼に差し出した。すると、彼は大変悦び、そのキャンディーを口に入れた。「ああ、これはいい。喉にいい」「風邪ですか?」「そうじゃないが、乾燥しているから、ああこれはいい」と上機嫌になり、そこからしばらく会話をする。彼は過去に7回来日しているそうで、おととしに最後日本に来ているようだ。そんな話をしながら、彼は自分の楽器に近づき~そのとき、やっと彼がドラマーだと分かった。素人と思われるので「何を弾くのですか?」とどうも聞けなかったのだ。彼はそのそばに置いてある自分のバッグからなんと、ドラム用の新品のスティックを一組出し、「ペンははあるか?」と聞いた。ボールペンしかないけれどといって差し出す。すると、彼はそのスティックのステッカー(使うときにそこを剥がすもの)に、そのペンで自らの名前を書き、「FOR YOU」といって私にプレゼントをしてくれた。そのサインには、Earnet Elly
と書いてあるようだった。(あとで確認するとプレイヤーネームはEarnie Elly)
へえ、ドラムのスティックをジャズドラマーからプレゼントされるとは。キャンディ1個で瞬間で打ち解けてしまった・・。そして私もコートにつけていた観覧車のピンズと名刺を彼に渡すと、とても喜んでくれた。演奏がはじまるまでのわずかな時間の出来事。行列から解放され、お客さんがどんどん入ってきた。彼は「たくさん人が入ると気分がいい。空気があったかくなるね」と笑顔で言った。名言だ。そう、ライブハウスの魅力はそれだ。会場はたちまちあったかい空気に包まれ、他のアーチストも順番にそろった。ピアノ、オーボエ、トランペット、トロンボーン。
普段着のジャンパーのような恰好が自然だ。気取りがないのがいい。さっき親しくなったドラマーもジャンパーを脱ぎ、ドラムセットに着席。するとさっきまでと違う、ミュージシャンとしての堂々とした風格と年輪を感じさせるオーラが漂い、それだけでこみあげるものがあった。
演奏中は写真撮影はもちろん禁止だ。当たり前だ。当たり前のルールがここにはちゃんと残っているのがいい。わずか1時間たらずの演奏中、いろんなアイデアが湧き、またミュージシャンたちから多くのヒントを得た。ジャズのいいところは即興、アドリブだ。そしてそのアドリブでのチームワークがバンドの場合最重要。練習していなくても、それぞれがプロだからどんなリクエスト曲がきても、なんとかやってしまう。決められたことでなく、そのとき生きている瞬間の気分をそのまま演奏にする。ジャズはやっぱりいい。
ずっとそのドラマーのことをみつめていた。彼はもしかしたら、すごい人なのでは?ルイ・アームストロングより少し後の世代かもしれないが(確かに。あとで調べたら1948年生まれ)安定感と迫力でその年齢を忘れさせた。永遠のパワーを感じた。
ライブが終わった。彼とハグした。「いつ、戻ってくるかい?」早いうちに、またきっと。
ドラムのスティックという贈り物。思わず、ピアニストだけでなくドラマーを目指すか?とつい思ってしまった。何を叩く?そう、考えてみればスティックさえあれば、いつでも練習できるのだ。幼い頃からドラムを学んだというアーネスト。人生その道に生きる。という感じ。
生涯自分を表現できる仕事って素晴らしい。特等席に導いてくれたわが友に報告したら、「How Cool!」と感動していた。ニューオーリンズに少女時代にもし行っていたら、人生違っていたかも。さっそく偉大なるドラマー、Ernest にサンクスカードを送るとしよう。

カテゴリー: Essay (Word) パーマリンク