「その気持ち、わかります。」

飛行機で移動したときの話。名古屋発新潟行。ジェットではなく、小型のプロペラ機。
旅客の座る位置により、機内の重量バランスが変わり、飛行にも影響を及ぼすという、
また天候によってはかなりの揺れも見込まれる、ちょっとドキドキの飛行機だ。
それに乗る。
とにかく新潟まで無事予定どおり着くように。まさか悪天候でどこかの空港へ
行くとか、折り返して戻ってくることはやめてくれ~と心の中で祈りながら
離陸前、シートベルトを確認する。

その飛行機は、ぐいーっと角度を空方向に変え、離陸。
よし、まずは飛んだ。
あとは無事着くように・・・と、何気なく足元を見る。
すると
さっきまでなかったはずの、大きなお財布が足元に・・。
「?なぜ?誰の?」
隣の人のものか?と思い、ちょっと訪ねるが、「いいえ。私のでは
ありません。前の人のでは?」
前の人の肩をちょんちょん、後ろから
「すみません、これ そちら様の財布ですか?」
「いいえー、違います」
そうか。もっと遠い席の人のかもしれない。離陸時に機体が傾いたときに
席の下に落としたものが後ろに転げてきたのかも・・。

早く、持ち主に渡したい。人の財布をみつけたときは、どうも気持ちが落ち着かない。
この飛行機、かなり揺れるのでキャビンアテンダントもまだ席に座っている。
早く立ち上がって、客席まで来てくれないかな・・。
わたしは持ち主のわからない財布を預かりながら、落ち着かないまま
どうすることもできず、しばらく待った。

気流が落ち着くと、スタッフがようやく立ち上がった。
私は高く手を挙げて、彼女を呼んだ。
「すいませーん。さっきまでなかった財布がここに落ちていました。
どなたかのだと思うので、聞いてみて下さい」
と、財布をスタッフに渡した。とても安心。

この機内の中の誰かのものなので、これで大丈夫だろう。
すると、1分もしないうちに、持ち主がみつかった。
その方は席が離れている、前方の女性。
キャビンアテンダントが財布を私から預かったのを
すぐみつけて
「それ、わたしのです」と、名乗られたのだ。
スタッフが
「持ち主はわかりまして、大変お喜びでした。
ありがとうございました。」
ああ、よかった。これで安心して眠れる。
と一仕事終わった気持ちでいた。

すると、今度、その持ち主がスタッフに導かれて
こちらの席まで来られた。
「財布をありがとうございます。助かりました」と
ぺこぺこ頭を下げられた。正直、恥ずかしい。
何もしていない、ただみつけた、ただ機内スタッフに
渡しただけのこと。
持ち主は、名古屋空港で買ったのか、わからないが
お土産らしきものが入った袋を私に差し出した。
「これ、お礼です」。
「いえ、いただけません。何もしていませんし、
たまたまみつけただけですので」
しばらく、そのお土産を介して
やりとりが続いたが、彼女は私にそれを
渡して席に戻られた。が、わたしはそれを
スタッフを通じてお返しした。
やっぱりお礼をいただくほどのことは何も
していないのだから。
押し問答がしばし続き、ちょっと恥ずかしい
ひとときであったが、無事持ち主に戻って
よかったな・・。

財布は最近、昔よりもより一層、重要な
失くしては困る存在だ。
お金以外の大切なものも入っているはずだ。
私が同じ目にあったら、パニックになると
思うから、無事持ち主のところへ戻って
良かった。
財布をなくすと、1日の生活が、当面予定が
狂うことになるのだから・・。

急上昇する飛行機ならではのアクシデント。
おかげでそうこうしているうちに
飛行機は無事予定どおり新潟空港へ、
そして持ち主は空港に着いても
私の顔を見て
「ほんとうにありがとうございました」
と声をかけてくださった。
いやー、わかるわかる。
財布拾ってくれた人は、恩人みたいな
ものだから・・。

いやー、財布、見つかってよかった良かった。
その気持ち、わかります。

ふと、自分が財布を飛行機に置き忘れていないか
どきどきしながら、バッグのなかを探り、
空港から次へ向かった。

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