父とふたりの珍道中。
初めて、一緒にふぐを食べる。
父は熱燗、私はビールを飲みながら、
最初はお酌し、そのうち手酌になって、
自宅で食べているかのようなリラックスした気持ちでいただく。
実家を飛び出してから35年。
いつの間にか、ぐるっと一周してきたようなわが人生だ。
父が80歳になっても、元気で、会話もまったくボケがなく
冗談も通じ、酔うと少し悪態をつくところも、昔のままで
変っていないことに安堵する。
そして、いろんな思い出話をする。
父が覚えていない、私の幼き頃のうれしかったこと。
つらかったことなどは、もう消えている。
「そんなこと、あったか。もう記憶にございませんやわ」
どうやら、某元都知事を真似ているようだ。
やはり さしで、二人で語る時間は大切で、
こういった時間はかけがえがないと思う。
海波の音を聞きながら、父の寝息を聞きながら
よく元気でいてもらえるものだと
改めて、すべての神さんに感謝する。
3歳の頃、父を「パパ」と呼んでいた記憶がよみがえる。
子供の頃は、父からすれば可愛い娘だったんだろう。
生意気三昧のわが人生で、いやはや 恥ずかしくもあるが
悔いはなし。
語り合った旅を終え、名古屋駅のホームで父を送る。
「電車が来たよ」
父が手を差し伸べてくれた。
父が泣いているのに気づき、こちらも。
どうしようと思ったら、来た電車が回送だった。
「あ、これじゃないわ」
クライマックスが瞬間クールダウン。
これで良かった。泣いて別れるのは本意じゃない。
語り合えて本当に良かった。
もっとずっと元気に長生きをと、心から思う。