今、上映中の映画「沈黙」の主な舞台は、この写真にある長崎市の外海地区。この映画は
禁教・迫害の江戸時代を描いたものであるが、明治時代、キリスト教が解禁になったあと、
信仰心厚き地元の人々を支えたフランス人宣教師のド・ロ神父も、映画になってほしい
ほどの、立派な方である。彼は今、この外海の墓地に眠っている。
生前、布教をしながら、人々の暮らしを、健康を支え助けた。
地元の人たちには「ド・ロさま」の名で親しまれている。
宗教はもちろんのこと、建築も医学も、印刷も、食品製造も・・・すべて心得ていた方というから、
マルチ人間だ。キリスト教会世界のダヴィンチともいえるかもしれない。
そして、生涯をこの外海地区に捧げたド・ロ神父にまつわるさまざまな遺品が現存する。
そのひとつが、讃美歌用のオルガンだ。ふるさとフランスより、船でもってきた。そして
大きな振り子時計もいっしょに・・。
それがド・ロさまが女性信者たちにキリスト教教育を行った部屋に、
そのまま残され,公開されている。
私は、実はこのオルガンの音色が好きで、どうしても自作の、この辺境の地をイメージ
して作った曲をこのオルガンで弾いてみたく、今回、許可を得た。
100年以上前の、鍵盤もペダルもひび割れた、古い古いオルガン。
でも、そのデザインといい音色といい、歴史を感じる。海の向こうから渡ってきた
という風を感じる、素朴な音色なのである。
部屋に入り、オルガンをひとり弾いていたら、あるシスターがそこに入ってきた。
「聞かせてください」
彼女もこのオルガンを時々弾き、観光客に説明をされている。
私はこの地のためのワルツを、彼女のために弾きはじめた。
ペダルを必死に踏みながら、音が途切れないように・・。
ピアノとは違う奏法になる。
曲が終わったら、シスターがだまっていた。
「いい、いい。わたし、泣いちゃいそう」と言われた。
なんだか、立場が違うぞと思ったが、
「シスター、泣いちゃってください。」と肩を抱いた。
きっと、この道に入られて、厳しい経験もいろいろおありに
なるのかもしれない、あるいは、神様のことを考えておられた
・・あるいは・・・。わからないが、シスターが自分が弾く
オルガンの音色を喜んでくださったことに感動した。
100年前からここにある、ド・ロ様のオルガン。
オルガンは生きているんだ。と今回思った。
必死にペダルを踏んで、風を送ることで音が鳴る。
ピアノはキーを叩くから、違う楽器なのだ。
シスターと別れるとき、
「あなたから、元気をもらったわ」
と言われ、不思議な感覚に・・。
ド・ロさまは、印刷を日本で広めた方だ。
これも何かのご縁を感じる。
現代社会とはいい意味で分断された、外海。
遠藤周作が、ここを気に入り、小説の舞台にした
のは、よく理解ができる。
いつか、このオルガンでコンサートができたらいい。
宗教の壁を乗り越えて・・。