朝市のおばあちゃんの贈りもの

地道に毎日働く人は美しい。コツコツ仕事をする人は素晴らしい。
勝浦という町が今も廃れないのは、朝市のおかげだろう。
全国各地に朝市が今も存在するが、勝浦の朝市はその中でも
海の幸、畑の宝が手に入るユニークなマーケットだ。
一匹一匹魚を焼きながら、1枚1枚お餅を焼きながら、
観光客らに試食をすすめる。
手先も器用だが、それ以上にお口がなめらかなおばあさんたち。
そう、朝市を仕切るのは、おばあさんたちだ。
中でも、今回感動的なおばあさんに出会った。
なんでも勝浦朝市の発祥の地となっているお寺の入り口横に
場所をとって売っているおばあさん。
朝市の中でも、一番いいS席だ。そのおばあさんが竹で編んだ
籠や、お餅や、野菜や、お花をずらりシートの上に並べている。
「おばあちゃんが、せっせと編んだ籠ですわ。」
「おばあちゃんが、毎朝ついている餅ですわ」
すべてのモノがこのおばあちゃんの手により、商品になっているのだ。
花は自分の家に育ったものを採ってきたのだろう。
そのおばあちゃんは、日焼けをしてちょっと浅黒い。
歯はちょっと抜けているが、それを隠すこともなく、
口を開けて笑うと、本当にかわいらしく、このおばあちゃんから
買わねばと思ってしまう魅力があるのだ。
そして、いつのまにか、籠とお餅を買った。
すると、「これ、うちになっていた橙。切って、レモンのように
絞って使ったらいいわ。お餅は冷凍して、食べる日の前に解凍して
おくと食べるときに柔らかくなるよ。おばあちゃんが毎日ついた
お餅だから、おいしいよ」
デパ地下のいかにも売り上手なマネキンより、この人の商品なら
全部買ってもいいと思うほどの、なんともいえない接客なのだ。
夜なべして、早起きして準備をして朝市に向かう。
そして午後は翌日の準備をする・・そんな暮らしなのだろう。

高齢化社会というが、それぞれの町でこんな風におばあちゃんの
出番があれば、町も人もいきいきする。
もちろん、おじいちゃんの出番も作らねばならないが・・。

地道に仕事をするおばあちゃんの曲がった背中を見て
背筋がピンとした。

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