「これで食べてきたからね」

師走・・自分自身はあまり普段と変わらないつもりでも、世の中全体が
目まぐるしい感じになる12月。
この追い込まれ感は、メリハリある1年には必要かもしれない。
またこの繁忙期のどさくさ紛れに、きな臭いこともいろいろ、ますます・・。
裏がある人たちの露出に翻弄されてはいけない。と自らを律して
生きなければならない、ここのところ、ますますその気持ちは高まる一方だ。

そんななか、最近は、頭が下がる人たちに出会うことも多い。
そして、襟を正す機会をいただく。

たとえば、近所の豆腐屋さん。
実は20年以上近所に住んでいたのに、看板も出ていないため、
やっていないのかな?と思っていた。時々、作業をしている
おじいさんとおばあさんの姿はみかけていた。
ある日、前を通ったついでに、人影が見えたので勇気をもって店に入る。
「あのー、お豆腐、買えますか?」
するとおばあさんが店の奥から出てこられた。
そして、豆腐だけでなく、視界に入った厚揚げ、がんも・・も袋に入れてもらった。
単価の安さを聞き、また手間を思うと、ついつい・・。
そして、その豆腐を食し、感動する。
街の豆腐屋さんの豆腐がこんなにおいしいとは・・。
それから、通るたびに買うようになった。
20年買わないで量販店で買っていたことを悔いた。

「豆腐屋さんって、なんで朝早いんですか?」
「卸をやっているからね~」
幾たびに会話が進む。ああ、
山形からお嫁に来られ、この豆腐屋をご主人と一緒にやっておられるとのこと。
80年の老舗だ。
「豆腐屋という仕事は、こんなんですから、お嬢様にはできない仕事ですよ。
 お父さんが80歳になるまではがんばろうと思っていますよ」
ご主人が未明に豆腐を仕込み、女将さんがそのあと、
がんもや厚揚げを作る係だそうだ。毎日そのリズムで仕事し、暮らしている。

1個130円の豆腐。店先だけの販売でそうそう売れるわけではない。
卸もしていないと、続かない。豆腐屋さんの商い、大変だ。

「これで、食べてきたからね。」
その一言に胸がいっぱいになる。

何をやって生きてきたか。
偉そうにのさばる人たちとはまったく別世界の、自分でこつこつ稼ぎ、
自分の力で生きる人たち。

こんな人たちが日本を支えてきたのだ。
目立たない、路地裏のお店たち。メディアにも出ない、騒がれないけど
しっかり地元の人々に愛されてきた。

東京にいる限り、このお豆腐やさんを買い続けようと思っている。
ついつい、買い過ぎてしまうのは、困ったことだけれど・・。
この豆腐屋さんの背中、田舎の両親と共通している。
「関西の人ですよね~」
と、女将さんに認知されつつある・・。

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