「たまごが中に入るようにね。」

この言葉は、子供のころ、ピアノの先生から教えられたピアノを弾くときの
手の形だ。手のひらのなかに、あたかも「たまご」が中に入るように、丸く
して鍵盤に向かいなさい。という意味だったと記憶する。
なぜか、そのことはピアノを離れていた時代を経た今も、よく覚えており
ピアノを弾くときはそのことを意識するようにしている。

先日亡くなられたピアニストの中村紘子さん。生前のドキュメンタリーで
その手の形のことが出てきて、釘付けになった。
少女時代から天才ピアニストだった中村さん、ジュリアード音楽院で
そこの先生に、手の形を厳しく指導され、スランプになった時期があった
そうだ。
そのアメリカでの教えを乞うまでの弾き方は、ぺしゃんこに指を倒して
弾いていた。ジュリアードでそれでは、いい音が出ない、まるい手に
して弾きなさいと言われ、ずいぶんとそれまでの奏法に自信をもって
いたのでショックを受け、直すのが大変だった・・という話。
そう、おそらくその丸みを帯びた手とは、たまごが中に入るように・・
という話に近いのだと推察する。

ぺシャンとした手の形だと、強い音になる。よく言えばストレートに響く。
でも、丸い形は、伝わり方が違う。もちろん強い音も出せる。
手の形ひとつで、伝えたい音が変わる。

このことは、今、コミュニケーションの勉強・仕事をする現場でも
大変役に立つ。
どんな言葉で、どんな音で、どんな色で伝えたいか・・。
音楽家の場合は、技術だけでなく、音色が大切だ。

技術はもうかなり低空飛行の私であるが、音色は意識していきたい。

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