「目的は何なの?」ブエノスアイレス老舗カフェ体験談①

アルゼンチンタンゴはスペインからブエノスアイレスに向かった移民たちの間で約100年前から発展を遂げてきた独自の文化である。五感全体に染み入る美しさと技巧も含めた芸術的な価値が極めて高い無形文化財だと個人的には思っている。NYでのリトルイタリーもそうであるが、はるばる海をわたり異国での人生を再出発した人々にとって、見知らぬ街で生きていくことはどんなに割り切りが必要だったのだろうか。港町が好きなのは、その割り切りとそこから生まれる演歌的な表現に出会うことができるからかもしれない。人生の悲哀の間につかの間の喜びを認めるような・・。

昨年完成したサードアルバムにはそのタイトル「あなたに捧げる1,2,3で愛のうた」にあるように、愛のワルツをいくつか織り込んだ。そこにはアルゼンチンでタンゴとともに根づいているVALSAS(WALTZ)も入れた。哀愁に満ちたノスタルジーなメロディが特徴だ。とくにブエノスアイレスの老舗カフェカフェトルトーニの店内をイメージにつくった曲。これを、どうしてもこの店に直接届けたいと思っていた。
今回のブエノスアイレス訪問ではその念願が叶うか?
事前にメールを入れたものの、予想どおり無反応。であれば直接届けよう。

その日、少し緊張してそのカフェに向かう。
入口に英語が話せそうなスタッフを見つけ、話しかける。
日本からやってきた、この店が好きで何回も来ている。そしてこの店をイメージして曲を作った。そのCDを渡したく、やってきたので責任者に会えないか?
という内容だ。
もちろん、すぐお店のオーナーやマネージャーにすぐ会えるとは思っていなかった。
そのスタッフは興味深く、いろいろ聞いてくれる。この街の古いカフェは、いわゆるカフェ営業とタンゴショー運営との両者を担っているが、責任者はそれぞれ違うようだ。
そのスタッフらしき男性~ミゲル~は、私が手渡したCDを受け取りながら、タンゴショーの責任者は週末だけやってくるから、そのとき渡すことになると説明してくれる。
もちろんアポなしで今日会えるとは思っていないし、それだけでも十分だ。
その店の曲を作ってきたというだけで、給仕人のおにいちゃんたちも興味深く私の方に近づいてくる。そしてCDを聴いてみたいと言ってくれる。
ミゲルは、私に聞く。「CDをショーのオーナーに渡す目的は?」。
そう、CDを売りたいのか、ここで出演したいのか?ということのようだ。
はるばる1日以上かけてやってきた以上は、それなりの意思や目的はもっているのだろうということだ。
私はまさか、ここでCDを売ってほしいとか、この店で演奏したいとは思っていなかっただけに驚いた。この店が好きで曲を作ってCDにしたので聴いてほしい。こんな日本人ファンもいるよということを知ってほしいだけのささやかな願いであったが、さすが移民の街だと感心。

もちろんチャンスがあれば、そりゃ弾いてみたいし、歌ってみたい。でもさすがに・・・。
そうか~、そんなこともありなのか。ミゲルは夢を見せてくれた。

まずは、週末に店にやってくるそのオーナーに渡してくれて、月曜にはその反応を私にメールをくれるとの約束。

スペイン語表記になっていないCD,また、MAHSAと、MASAKO IMAOの違いなどなかなか説明がむつかしい部分もあったが、元ギタリストでもあるらしいミゲルはナイスガイのようだ。一生懸命に私の思いを聴いてくれる。
そして、打ち解けたあたりで、
「結婚しているのか?」と聴いてくるところも、さすがラテン系だ。

このカフェはタンゴ誕生より前に存在する、創業約160年の店だ。ミゲルいわく世界で二番目に歴史があるカフェだそう。その当時と現在が混在しているところが何ともいえない魅力だ。

そんなこんなの老舗カフェへの飛び込み訪問。そこに大物が現れた。
(続きは次へ)

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