久しぶりのブエノスアイレスでの一番の目的は、タンゲーラ巡りとタンゴ音楽の研究だ。
ああ、これはこういったアレンジ、これはこんなリズム。たとえば、日本でおなじみのラ・クンパルシータにせよ、ルベルタンゴにせよ、タンゲーラごとに、ステージごとに演奏者ごとに違う
アレンジで、ダンサーたちの舞があるやなしやで、まったく雰囲気も違う。すべて違う!常に五感がびんびんしてくる、そんな世界だ、
私はいつもピアノと、まだ実行に移せていないバンドネオンの音色にひたすら耳を傾ける。
昨年、一昨年のライブで演奏したワルツメドレーの原曲の一曲が思いがけず登場すると、たまらなく興奮して、やっぱりいい選曲であったと自己満足のひとときを味わう。
そして、近年演奏が可能になってきたピアソラのもっとも有名な難曲のひとつ、「アディオス・ノニーノ」を今回も聴くことができ、メインのパートをつとめる若手のバンドネオン奏者の音色に心から酔いしれ、ピアソラが父親の死を悲しんで創ったというこの曲に、わが父を思った。
父はおかげさまで元気だ。でも、いつかこの曲のように。。。ピアソラが思ったようにそんなことを思う日が来るのかなと思うと、涙があふれ、ピアソラの「ノニーノ」(お父さんの愛称だったらしい)が、いつの間にか頭の中で「私のお父ちゃん」すり替わり、涙が止まらなくなった。
音楽とは、人生のいろんな思いをそこに込め、表現できる。そして思う人が、さらには自分が亡くなっても弾き、歌い、聴き継がれる。
アディオスか・・。まだまだお別れの日が来ないように。
それにしても、ピアソラは親孝行なアーチストだ。
初めて知った大学時代から30年。今さらに光り輝く存在だ。
きっと天国でその、ノニーノとともに、故郷で毎夜、演奏されている自曲を楽しみながら聴いているだろう。