越後のMr.BEANとおしゃべりばあさん。

いつもよりちょっと長くなるが、最近のほんわか体験談から。
その日は、新潟県内を電車で移動。早朝、新潟市から新幹線でまず長岡へ行き、打ち合わせ後、次は在来線で六日町まで向かう。新潟出張でうれしいのはこの季節の在来線の移動。のどかな田んぼの風景や、向こうに見える山々やときには海岸線から見える日本海・・。たとえ仕事中であっても、ほっとできるひととき。今回も長岡駅からしばらく、そんな気分を味わいつつ、次の現場で使う書類などを見て、降りる駅を間違えないようにと時々腕時計と車内の地図を見比べて・・。車内はガタゴトと揺れる電車の音だけが聞こえて、のどか。乗客もそれぞれ本を読んだり、イヤホンで音楽か英会話か、落語かわからないが聴いている人も・・・。客席はボックス席もあるが、線路と平行な横並びの席がほとんどである。越後川口あたりの駅だったか元気なおばあさんが二人乗り込んできた。そこから車内の空気が一変した。二人が大声でしゃべりながら登場したのである。そしてしゃべりながら、空いている席を探し、「ここしかないか~」とか言いながら、私の座席と少し離れたその横並びの席に陣取った。さあ、そこから二人はすべて会話が周囲に聞かれているのもおかまいなしに、田んぼの脇で偶然出会っておしゃべりしていると同じぐらいの大きな声でずっと話し続けること20分ほど。最初は「うるさいな~」と思っていたが、そのおしゃべりのボルテージはどんどん高くなり、周囲が首をかしげるほどになった。そしてそのおばあさんの真向かいに座っている紳士。この方は私から見ると斜め前に位置する。おしゃべりばあさんたちの顔は私には見えないが、対面に座っておられる紳士の様子はよく見える。紳士は最初、読書をされていた。それも見えたタイトルから、雑誌ではなく専門書のようだ。その読書をおしゃべりに中断させられた模様。紳士は怒った顔で、本をぱちんと閉じてみたり、もっていたコンビニの袋をガサガサいわせ、そこから飲料を取り出し、飲んでみたり。思わず私はその紳士を観察してしまった。「うるさいから、本が読めないじゃないか~」という怒りを、ゼスチャーで表現しているようだ。その動作は10分ほども続き、それでもおばあさんのおしゃべりがやまないので、自分がしていることの反応がないことに苦慮されているご様子。その紳士の一連の動作は、まるでイギリスの喜劇役者Mr.BEANのようだ。どうしよう。と見ていて思ったが、その瞬間、私は立ち上がった。そしてそのおしゃべりばあさんたちの前に進んだ。さっきまで顔が見えなかった二人、前を見ずにお互いの顔を見ながらしゃべり続けているから、対面のBEANさんのことは視界に入っていない感じ。「あのー、お話し中すみません。」と思いっきり小さい声で話しかけると、二人のおばあさんは「はい?」と私の存在に気づいてくれた。「あのー、すみませんがちょっと声小さくしてもらえませんか?周りのみなさん、読書されていますし」と言った。するとおばあさんたちは「ああ~。すみませーん」といわれた。そしておしゃべりをやめるのではなく、ひそひそ声でおしゃべりが再開した。私はそのまま自分の席に戻ったら、その対面にいたMR.BEANが私の方を見て、笑顔で大きくうなずき、指でOKサインのような「よくぞ言ってくれました」という態度を示した。私はそれに応じるのも恥ずかしく、ずっと違うところを見て座っていた。浦佐の駅で、その紳士が降りた。電車から降りるとき、そのBEANさんは大きな声で「お世話様でした~~」と私に声をかけてくれ、私も笑ってうなずいた。
BEANさんのことを思い出したら、なんだかおかしくてひとりでずっと笑いながら六日町で電車を降りたあと、歩きながら仕事場へ向かった。新潟ではこうして注意もしやすいが、東京の地下鉄だったらどうだろうか?
なんでも言い方だと思うが・・。もっとも、そのおしゃべりばあさんが、自分の親にも見えたので、自然に声がかけられたのかもしれない。

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