本物に出会い、アンビシャスになれる港町。

港町が好きだ。海なし県で生まれ育ったせいかもしれない。余計に海やその向こうの世界へのあこがれが強い。仕事では新潟へ通っているが、実は新潟市も立派なみなと町。芸妓文化もそれ故に発展したそうであるが、現在「みなとぴあ」と言われている歴史博物館、税関後、第四銀行の旧支店跡などがあるエリアが私にとっての、港町新潟を感じるエリアである。ただ、ほとんどが仕事での新潟市滞在で、そこへ行き情緒にひたる時間があまりとれないのが少々残念。せめて宿泊した翌朝、萬代橋や柳都大橋を徒歩で渡り、信濃川から続く日本海を眺め、佐渡汽船の行き来を見ながら、香港とマカオに思いを馳せたりするひとときを楽しんでいる。

同じく港町の少し先輩のまち。長崎、横浜、神戸、そして私にとってのわが未開の地、函館。いずれも異国情緒漂、みなと町だ。

この週末は、久しぶりに横浜を訪ねる。東京から1時間足らずで行き来できる町なのに、港町というだけで、私にとっては非日常の町である。なぜか、何かのついでに行きたくない、わざわざ気合を入れて、訪ねたい町なのだ。

今回、前から気になっていたレストランを初めて訪ねてみる。北欧料理のお店だ。外から見ていたのと、中に入ったのではまったく違うというこのギャップも良く、税関近くにあり、そこに入るだけで、まさに異国の港町にやってきた感じもうれしい。ホテルのレストランのようにどこかしら気どっているというのとは違う、老舗レストランとしての真面目さが漂う。実は電話予約した際にも、その落ち着きのある丁寧な応対に、本物のお店だという印象を持った。

料理もすべて細やかなこだわりを感じられ、味も良く、値段も適正。インテリアはまるで北欧にいるような木製の彫り物が随所に掲げられ、真っ赤な絨毯。そしてボリュームをかなり抑えてチャイコフスキーやドボルザークが流れているのも良い。BGMは店の品位を決める。その店内を女子大生らしきスタッフたちが静かに行き来する。お店に大きな柱があるのも、実はポイントになっている。スタッフはその柱の陰からお客の食事の進行をうまく見ながら、次のサービスにとりかかるのだ。

久しぶりにこれぞ、外食!とレストランでの食事で感動をした。チェーン店でもなく、マスコミが騒ぐお店でもなく、本当に品のよさそうな人たちで作りだしているいい空間。背中が少しまがりかけておばあさまが、たぶんオーナーだろう。普通に仕事をされており、「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」と声をかけられる姿にも頭が下がる。そんな店が、存在する。創業50年の広告が入口に貼ってあった。最近の広告ではないのが、またいい。歴史を積み重ねていることを店のどこをとっても感じることができる。

このレストランひとつとっても、さすが、横浜だと改めて思う。

みなと町は、文化の交流、ノスタルジー、異国情緒、ハイカラさ。すべてにおいて私のあこがれをすべて持っている。

無意識ではあったが、このあと長崎に向かうから、しばらく港町文化に触れ続けることができそうだ。

ブルースが生まれるのが、よくわかる。

海が見える丘で、果てしない海と空を見ているだけで、アンビシャスになれる。

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