かつて相互マネージャーと呼び合い、長らく大変お世話になった作家。もう亡くなって5年になる。その方は生前、古本の安価買い取りや再販を行う小売業のことを大変怒っておられた。古本屋で買う、図書館で借りる・・・は作家にとってはありがたいことではないし、せっかく手に入れた本を古本屋に売るなんてもってのほか。とにかく作家という職業の尊厳を自らが守らねばと戦っておられたことが、今も印象に残っている。そう、作家は最初に原稿料をいただく以外は、印税で食べていくならば、本が売れてなんぼの世界なのだ。
最近、その方の著作でどうしても手に入れたいものが出てきた。もうその本を作った出版社自体もないため、普通に書店やネットで新本を購入することができない。かなり悩んだが、まさしくその古本買い入れ・再販をしている会社のサイトを検索すると、その探していた本が1冊みつかった。どうしても必要だから少し意に反するが、他に方法もないため、購入してみた。
本当は新本を買いたかったのであるが、今回ばっかりはやむを得ない。(●●さん許してください。)という気持ちだ。多くの単行本がそうであるように、その本も100円になっていた。送料と代引き代を入れても、もともとの定価の半値。しかもほとんどが本の中身の値段でないところも複雑だ。こんな金額で買って申し訳ない・・。
さて、その本が届いた。懐かしいと思い、でも古本であるから少しきれいに吹いて汚れをとり、背筋を伸ばして本を開く。すると、カバーを開いたところに作家本人のサインと篆刻が押してある。
ああ、この本は作家がわざわざ誰かに謹呈されたもの・・・なのに・・・・・。もし、生きておられたらどんな気持ちになられたか・・。と悲しいような複雑な気持ちになった。その一方、でも私のところに来ましたから。と手を合わせる。
手に入れたくないルートでの入手による1冊の本。それは20年近く前、一緒に企画し、その方が書いてくれた小説。小説の中身以上に、作家の仕事にかける思いや考えを改めて見つめなおした。
1冊の本との出会いは作家との再会のような・・。彼のような強い意志を貫く生き方、やっぱりがんばろう。と思う。そう、人生はずっと営業だと教えてくれた方。古本屋からの1冊でまた教えがよみがえった。この本はもちろん、ずっと手元に置いておくことにしよう。