とりあえず いってみますわ。

ポルトガルを語るときに欠かせない、「サウダージ」
という、聞き慣れない言葉。
意味は「郷愁」「思慕」「切なさ」など、生きる時間を
重ねてきた人にこそわかる、人生の悲哀を現している。

ポルトガルは500年以上前に繁栄した国で、多くの世
界遺産がその栄華を今に伝え続けているが、この過去
の栄光への思いが、この「サウダージ」と重なるのか
もしれない。

郷愁の国、ポルトガル。
ファドを聴くたびに、まさにサウダージそのものだと
感じた。なんともいえない深みある哀愁に満ちた声。
若い歌手の言葉より、齢を重ねた熟年の歌が心にしみ
いる。
スペインのフラメンコのような激しさ、強さではなく
静かに奥底から心に沁み込んでくる。

大陸の最西端であることも、ポルトガルの過去の栄華
に関係している。ザビエルたちが出航した海岸に立った
時、希望に満ちていた時代が想像できた。

美しき世界遺産たちが現役だった時代、
と、私なりにも大変思いが募るポルトガル。

来月、その国に移住する弟(分)。30年前からのつきあい。
壮行を兼ねて、久しぶりに会い、これまで共有した時間を
ふりかえり、無事の出発を願い、乾杯をする。

暫く会えないだろうから、と思い、
ポルトガルにわざわざ行く移住人に託したもの。
旅の道連れ、おともの品である。
長崎とザビエルと信長が自分のなかではポルトガル
につながるため、それに関するモノたちを用意した。

リスボンや長崎や信長への思いが詰まったマイCDと
歌詞集、オリジナルカレンダー。長崎の職人が作った鼈甲の
十字架、京都の金平糖。
そう、金平糖はコンフェイトー。もともとはポルトガルの
お菓子であり、信長も好んでいたもの。

十字架はザビエルが日本に伝えたものであるが、それを
持参することが歴史のお返しになるかも。と勝手に
用意した。

もう会えないかもしれないから。
そんな思いからも、これらの「道連れ」の小物たちにも
思いが籠る。
長崎にゆかりある旅人が、長崎で生涯を閉じたルイス・
フロイスのふるさとリスボンに住まうとは。

「とりあえず いってきますわ。」

500年前サビエルたちがポルトガルからこちらに向かうとき、
「とりあえず いってきますわ」ではなかった。
いのちがけ。結果、ザビエルは戻ることはなかった。

現代は戻ろうと思えばいつでも戻れるし、いかようにもなる。
それが500年前とは違う。

とはいえ、万人が同じ選択と行動をとることはできない。
自由を希求する人が苦労してつかんだ、大きなチャンス。
きっと現地で新たな道がまたみつかるだろう。
心からの応援と、無事の旅を祈る。

別れてからの帰路、
サウダージな気持ちに包まれた。

 

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