ふらり出かけたい。

ある作家のインタビューを見て衝撃を受けた。
2023年に芥川賞を受賞された市川沙央さん。
「ハンチバック」という作品であった。
正直、まだ読んでいなかった。

市川さんは先天性の疾患をもち、生きてこられた方だ。
人工呼吸器、電動車いすの生活をずっと続けてこられている。
障がいをもった当事者から見た、実世界を描いたこの作品。
その小説の主人公も作家と同じ病をもつ障がい者という設定。
健常な作家が障がい者を書くことはあっても、
当事者が書くということは珍しいそう。確かにそうだ。
アートの世界では最近作品を見かけることが増えてきたが。

その受賞作品はこれから読ませていただくが、
今回、彼女のインタビューを見ていて、
健常者から見た障がい者と、当事者から見る社会について
のギャップについて、考えさせられることがあまりに多く、
世の中がいかに、多様性を目指すと言ってはいても、そうは
なっていないということ、
また障がいを持たれているから故に見えてくる社会の歪みに
ついて、伝わってくるものがあり、胸がいっぱいになった。
当事者でなければ、他人事、きれいごとのまま・・という
ことがいかに多いか・・・。

本を読むにも、一苦労。紙の本のページはめくることが
できないという不自由さのなかで、本と向き合ってこられた
そうだ。
本を読むにも、文字を書くにも命を削っているとの言葉は
身に染みた。
いろんなことが、健常者中心になっていることが当たり前な
世界。
息苦しい世の中とかよくいうけれど、本当に息苦しい日々
を生き抜いてこられた方から見たら、何いってんの。
という話。

そんな世界を見ながら、普通に生きたいとずっと思って
こられた。

とくに印象的だったのは、
「ふらり、出かけたい」
ということ。
たとえば、散歩をするように。ちょっとお茶しに出かけよう
とか。

たとえば、図書館に行くといっても、家族や周囲の介助が必要
だから、「なんで?何のために?」の問いかけからはじまる。
それが日常だったそう。
目的がなくても行きたいこともあるし、それができない不自由さ。

ふらり出かける。
ごく当たり前と思っていたことが、障がいがあるとそういうわけ
にはいかない。
ということすら、私はわかっていなかった。
このことが恥ずかしく思えた。

そして、市川さんの洞察力は凄いと感じた。
世の中をよく見ている。
普通に歩ける人間には見えないことが見えている。

この力が言葉になって表現されれば、世の中への強いメッセージ
になる。

働きに出かけることができないから、
作家になった・・・。

一見消去法からの出発のように思えるが、
さまざまな差別を受けてきたことへの怒りが、力強い作品に
なり、評価された・・・。

市川さんの存在を知り、改めて社会が本当の意味で、多様性の
世の中になってきているのかについて考えさせられ、
また自分ができること、しなければならないことについても
考えるきっかけをいただいた。

本を読み、さらに彼女のメッセージを、今度は文字から作品
から吸収したい。
障がいをもつ人。自分だって、いつそうなるかわからない。
だから、ともに手を携えて、思いやりをもって、互いに学んで
生きていけたらと思う。

大江健三郎に影響を受けたという市川さん。
こちらも改めて読みなおしたいと思った。
また違う感じ方をするだろう。
そして、サンデクジュペリの「人間の土地」も。

市川さんのことを、心から応援したいと思った。

「ふらりでかける。」
この上ない、贅沢なこと。それを忘れることなかれ。

そして、市川さんが世の中の分断を憂い、
平和な世界を求めていることに心から共感した。
もっと揺らぎを・・・。その通り、その通り。

だから、いろんな人がいることを知り、理解し、認めたい。

ずしっと重いインタビューを見せていただいた。

あまり、放送局のサイトにリンクはしないけれど、
今日は特別に。
命の声を届ける 作家・市川沙央 – こころの時代〜宗教・人生〜 – NHK

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