オレンジコスモスと回転寿司。

実家の庭のオレンジコスモス。長い猛暑の影響か、今ごろ咲く彼岸花とともに
元気に咲いている。秋を感じる色合いで、じんわり温かい気持にもなる。
この花は、父の葬儀の朝、妹が摘んできてくれて一緒に会場に飾った。
病に倒れ、入院、施設での生活で自宅に帰ることができなかった父へ、せめてもの
気持ということで、祭壇を飾る立派な花たちの傍らに飾った、このコスモス。
この季節、この花を見ると、どうしてもその日のことを思い出す。
オレンジの色は、人生の夕焼けにも見える。

昨日は父の命日。実家でしばし、ピアノ練習をしたあと、このコスモスたちに別れを告げ、
岐阜駅に向かう。日も暮れてきた。
さあ、今日はこのあと、父との思い出にどうふれる?
まもなくフィナーレに向かう長良川の鵜飼を見に行くか?と思ったが、ちょうど、
天皇陛下と皇后さまが来岐されているとのことで、あの界隈は大混雑の様子。
であれば、それはやめて、さてどうするか。

岐阜駅ビルに入り、馴染みの開店寿司の前を通る。すると、ここでの思い出が一気に
蘇った。東京から帰ってくると、いつもここで待ち合わせし、ここで好きな寿司
を注文する。父はここで昼飲みをするのが好きだった。わずか1時間ほどの家族との
交流。ここで食事をするのが楽しいふるさと時間であった。
ここに来ると、ご機嫌であったなあ。ここで会い、ここで別れた岐阜駅時間。

と、そんな思い出をしばらく封印していたが、昨日は蘇り、気が付けば、ひとりで
暖簾をくぐっていた。
家族で座っていたボックス席の見えるカウンター席に一人座って、生中をオーダーし、
父に乾杯。店内を回る寿司を見ながら、親たちが好きだった寿司はなんだったか・・。
と、皿に乗った寿司とともに思い出もくるくる回る。

開店寿司にこんな風にひとりで入ったことはなかったけれど、こんな命日もありか。
他のお客さんが、いろいろ注文している様子を見聞きしながら、両親が元気だった
頃をくっきり思い出し、涙が出そうになると生ビールで流し込んだ。
ちょっといい記念日。こんな供養、こういう記念日もありか。

コスモスと回転寿司。
電車に揺れながら、浮かんだ父と母の笑顔。

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