かつて京劇のスター俳優が20年ぶりに故郷の舞台に立ち、妻が見守るなか、得意の演目を思い出の劇場で演じる。20年ぶりと思えない名演に観客は総立ち、妻も涙で拍手・・。一度、俳優という職業を捨て、中国から日本に移り住んだ。天職であった仕事、栄光を捨てての日本移住。夫婦が一緒に生きるにはその道しかなかったそうだ。それでも彼は妻と一緒に生きることが最優先だったから、俳優をやめることはつらくなかったという。そして20年ぶりに一度だけ演じたその舞台。「私は妻の目にどう映っているか、妻にとっていい演技をしているか、彼女にいいイメージを残せるか、いい思い出を残せるかが気になるのです。そのために演技をしています」との夫のその言葉にぐっときた。ああ、なんという美しき夫婦愛。そう、妻や愛する人に自分の一番好きな、見せたい姿を見せられることは最上の幸せであるが、もし相手がパートナーや家族でないとしても、観てくれる人、見守ってくれる人に、いい思い出やいいイメージを残せたらうれしいと思う、そうありたいと願う。
自分が誰かの前で歌を歌う、話をする、ピアノを弾く。なんでもいいけれど、観てくれる方にとって、その共有した時間が忘れることのない思い出になる、幸せな時間、良いイメージとして残るように努力することは、アーチストに課せられる使命だ。それにしても、この俳優夫婦の話はあまりに感動的だ。今も福岡に静かに暮らしておられるようだが、、。この夫婦の人生自体があまりにドラマチックで、舞台そのもののようだ。その俳優の夫いわく、「人生は苦労するものだ」という。それがわかっているから、演ずるときに笑顔が満ち、人を幸せにできるのだろう。大変いい教訓を得ることができた。どうぞいつまでも夫婦仲睦まじく、お元気にいてほしいと願う。
いい思い出、いいイメージを残したい。という仕事
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