ピアノとタイムトリップの幸福。

以前より大好きな博物館が浜松にある。浜松市楽器博物館。
楽器のミュージアムとして世界の楽器を種類多く集め、展示しているのは、世界でも他に類を見ないのではと思う、本格的な楽器ミュージアム。
さすが楽器製造の拠点である浜松ならではの文化遺産であるとそのコレクションと運営に頭が下がる。立派な音楽の街だ。うらやましい。

久しぶりに訪ね、鍵盤楽器の数々を目の当たりにして、十年ほど前に通ったとき以上に、
激しく感動した。ここ数年、ピアノがより身近な存在に戻ってきたせいかもしれない。

鍵盤楽器の歴史は約300年という。19世紀から宮廷音楽として、教会音楽として、サロンで、そしてホールで・・・。音楽が川上から川下へ・・・。天上の、貴族のための存在が、ベートーベン以後、一般にも鑑賞されるようになり、ピアノの形状も変わってきた。

この下にある写真は、超越技巧ピアニストとしても名を馳せたリストが提携していた、ベーゼンドルファーのピアノ。観た目、超越技巧向きには見えない上品なつくりであるが、これでとてもマネできない難曲を演奏していたのかと思うと、興味も高まる。
それ以外にもドイツ以外に、フランス、イギリス各国で作られてきたピアノ(近代はピアノフォルテと呼ばれた)たちがずらり並ぶ超スペシャルな展示室。スクエアピアノから、家具調ピアノから・・・そしてオルガンまで・・。
ピアノは楽器であるが、弾くだけなく、魅せるモノであったのだと納得。
いやはや、美しい、見ているだけでも芸術品・・・。
展示された楽器のいくつかでは、その楽器で演奏された楽曲の録音されたものも少し
試聴できる。時代を感じる、少し古めかしい音、素朴な音・・・。
どのピアノもやっぱり弾きたくなる。どんな音?どんなタッチ?
しかし、残念ながら、こちらのミュージアムは、基本、楽器に触ってはいけない。
駅ピアノではないのだ。
衝動をおさえながら、せめて撮影を・・・。

ここに来ると、ベートーベンもシューベルトも、リストも、ガーシュインも・・・。
各時代の作曲家、演奏家、そしてピアノ製作者が集まってきているような、
そして19世紀の貴族たちから一般の聴衆まで、いろんなお客様も・・・。
と、音楽でタイムトリップできるのだ。
ここにいるだけで、さまざまな発想も湧いてくる。

浜松は、素晴らしい町だ。
小学校の頃、名古屋から初めて新幹線に乗って浜松にやってきて、ヤマハの本社に
伺い、偉い方たちの前で高級なエレクトーンを演奏した日のことがなぜか浮かんだ。
そういえば、そんなことがあった。
浜松は、子どものころから縁がある町だったのだ・・・。
鍵盤楽器を作る人がいて、曲をつくる人がいて、それを演奏する人がいて・・・。
手間がかかる仕事であるが、だからこその崇高な感動が生まれるのだ。

鍵盤楽器の存在に、その歴史を受け継いでこられた内外の先人たちに心から敬意を表し、これからも演奏することに誇りをもって、その楽しみを受け継ぎ、自分なりに伝えていきたい。

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