タクシーには、出張先でよく、都内ではごく稀に利用するが、ドライバーと自分だけという密室、しかも意図せず、どちらも相手を選んだわけでもない出会いというと
大げさであるが、タクシードライバーとお客の出会いとは、食事に好みの店に行くというのとは全く違う選択だ。偶然の偶然が重なる出会いだ。そこが面白く、また時には危険を感じ、それでもこれまで出かけた諸外国のタクシーと比べて、日本のタクシーはなんと治安が良く、安心して乗ることができるのか、さらには人のいいドライバーに出会うと、なんだかうれしい移動になったりもする。
東西線が人身事故で止まったと、出張先から戻る新幹線の車内で気づく。(メールサービスはこういうとき便利だ)重い荷物をもっての混雑した地下鉄の駅での待機はたまらん!ということで、東京駅の慣れない乗り場から、タクシーに乗る。
行先を告げてから、だいたい私が先に声をかける。「まだまだ暑いですね~」と気候に関することを言う。その反応により、そのドライバーのコミュニケーション力がわかる。対応が気持ちいい方の場合、なぜかいろいろ話を仕向ける。その投げかけに対して心地いいボールを返してくれるとますます質問してみようという気になる。
偶然出会ったドライバー、しかもこの密室。いい感じで明るく過ごせたらいい。
今回乗った車の運転手さん、なかなか丁寧で控えめで、優しそうだ。「ところで、運転手さん、どちらの生まれですか?」と聞いたら「私、新潟なんですよ」お!東京のタクシードライバーで新潟出身とは初の出会いだ。「そうですか~。私、上越から帰ってきたんですよ」「へ?そうですか~。実は私も昨日まで実家に行って帰ってきたばかりなんですよ」「あ、そうですか。実家ってどちらですか・・」という具合に
そのキャッチボールのやりとりは急にスピードも速くなり、運転手さんが嬉しそうに返してくれるのが面白くなってきた。「冬は雪かきしないといけないので2週間に一度は帰るようにしているんですよ」「おふくろつくったトマト、素人なんですけど、売っている野菜と変わらないぐらい、うまいんですよ~」どんどん相手のことが見えてくる。降りるころになって「新潟でディナーショーとかライブとかラジオとかもやっているんですよ」「へ?ど、どこでですか?」どんどん興味をもってくださる。
最後には「10月に新宿でライブしますので」と言うと、「あ、そうですか。私音楽好きなんで・・」ととりあえず、名刺を渡しておくと、「あとでホームページ拝見します」・・。乗った20分前は全く知らない人だった。もし、その車に乗らなければずっと知らない人。不思議なことに会話の中で共通点がみつかり、それが増えていくごとに距離が近くなり・・。
タクシーに乗るとは、移動だけでなく、コミュニケーションのドラマも楽しめる。
さて、またその魚沼出身のドライバーさんに、会えるだろうか?
地下鉄が止まったことで、不思議な新たな出会い。
タクシー・コミュニケーションはやっぱり、面白い。
そういえば社内に花をいつも飾って、時間に合わせてBGMを変えている新潟の個人タクシーのあの方は、お元気かしら?と書いていて懐かしくなってきた。
疲れも吹き飛ぶ、タクシードラマ。
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