京都のとある洋菓子店。こちらは明治時代からの創業とのこと。
私にとっては学生時代から憧れの店のひとつで、京都といえばの
お店のひとつ。
何とも言えないレトロな創業当時の面影は、洋菓子自体が
まだハレの日の特別な存在であったことを思わせる独特の魅力がある。
初めて前を通った40年ほど前と今は、店の外観、店内とも変わらない。
但し、店の奥はカフェに改装されたため、こちらは進化しているが。
主な商品はロシアクッキー。知った頃は、その珍しさもあって、
余計に興味をもった。今も、伝統を受け継ぎ商品は変わらず、新商品は
マドレーヌが36年ぶりに発売されたとのことで、ひとつの商品の発売
に向ける時間のかけ方も、素晴らしい。
急がない、じっくり時間をかける。いい意味でマイペース。
モノづくりとは本来そうであるべき道を、今も貫いている。
ニーズがあるからといって、規模を拡大したりしないのだ。
仕事への向かい方もブレない。
そんなことも好きな理由。
京都に西洋にあこがれていたときの自分に戻れるようなタイムトリップ
を楽しませてくれる店。
久しぶりに前を通ったので、壊れそうな重いドアを開けて中に入る。
店内は薄暗い。こちらも昔のまま。店内は混んでいるし、次々と
お客さんが入ってくる。相変わらずの人気店だ。
なつかしのロシアクッキーを選び、そして他のお客さんの接客に影響
されてか、思わず、当店のもうひとつの名物の缶入りクッキーのディスプレイ
が目に飛び込んできた。
「すみません。これ、注文できますか?」
とたずねると、「はい、こちらは早くて来年の秋になりますが、
それでもよろしいですか?」とごく普通に答えられる。
毎日この応対を何十、いや百回以上、こなしているのだろう。
そうだ、このお店では、急ぐことがない。速さが売りではない。
じっくりマイペースで作り続け、できたらお客さんにお届けする。
おそらく1日の生産量を計算した上での、来年の秋のお約束なのだろう。
この姿勢も、なかなかで、そんなに待たされるならば、よし待とうじゃないか
と思えてくる。
「はい、ではひとつお願いします」と、予約。
取りに来るならば、お代も1年後。送ってほしいならば、前払い。
各地から足を運んでくるお客さんの多くは支払っていく。
すごい信用だ。1年後の納品のために、今からお金を払うとは・・。
と、この洋菓子店のスタイルは何かと学びも多い。
他がどうであれ、うちはうち。
伝統を守り続けながら、カフェなど新しい事業も行うが、基本は崩さず。
考え方やこだわりが透けて見える仕事は、とても気持ちいい。
商品がおいしいのはもちろんであるが、
スピリットに共鳴するのだ。
速い、安い、どこでも買える。
すべてに逆行していることで、価値を高めているのかもしれない。
来年の秋まで、待つ。
忘れてしまうかもしれないが、まあ、電話がかかってくるから、
そのとき、思い出せばいい。
来年の秋・・・。わが身はどうなっているだろう?
と、そんな想像ができるのも、ワクワク感につながる。
京都の老舗に学ぶことは、多い。
そんなわけで、最近は寺町界隈が改めて気に入っている。