楽譜はタイムトラベルの地図。

親が与えてくれた、遺してくれた音楽世界は、このコロナ禍、そして
アフターコロナの今も、とても役に立っている。
concertをするとか、人前で演奏するという活動だけでなく、
自分自身の内面の充足に大変役立っている。

たとえば、今日はショパンでいこう。ブラームスでいこう。
と思えば、その楽譜を開き、目に映る音符たちを初見であっても
昔親しんだ曲であっても、目を凝らし集中して弾き進めていく。
すると、音の連なりから、あるひとつの世界が広がっていく。

今度は、いくつかの名曲がひとつにまとまった「ピアノアルバム」
という、ミュンヘンの出版社のオリジナル編集の1冊をめくりながら、
最初のバッハから、最後のガーシュインまで音符をたどる。
上手く弾けなくてもとりあえず次へ次へと弾き進める、
その作曲家の生まれ故郷、住んでいた町、竟の住処となった
場所・・・曲が変わるごとに、いろんな場所に移動する。
そんな気持ちになってくる。
1冊弾くとドイツからフランスやロシアを経て、最後はアメリカで
終わる。なんと、1時間半で世界をぐるり周遊できる。
なんと、コスパのよい旅だろう。

実際に尋ねたことがある街であれば、具体的に街並みや建物やその日
の空の色までがよみがえり、本当に行った気分になれる。
さらに、メロディを重ねながら、時代を18世紀に、19世紀に、20世紀後半にと
時計を好きにチューニングする。すると、とても当時の町が広がる。
行ったことはないが、本で読んだり、映画で見たその時代の世界が広がる。

楽譜を見ながら、鍵盤に触れることで世界一周も、タイムトラベルも、
自由自在になる。
楽譜は想像の旅の手引書であり、地図である。
楽譜が読める、指が動く。飛行機に乗らなくても、安全な旅ができる。
なんと、幸せな人生か。贅沢なことかと思う。
昔は試験のために弾いていたから、何とも思わなかった音符が今は
私の内面を刺激し、想像力をかきたててくれる。
今だからこそ、音を味わうことができるのだ。

人間の想像力とは、本当にすごい。
当時の楽譜から、現代にいたるまで。丁寧に受け継ぎ、遺されていることに感謝
しながら、そんな小旅行の時間を意識して持つようにしたい。

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