また来年、ここで会おうね。

花びらがすべて散った桜の木々。誰も、もう立ち止まって見上げることも
ないが、その緑色が目に優しい。
そして、季節が少し動いたことを感じる。
卒業、入学、入社・・新しいスタートを祝い、応援する春の儀式が
終わった。桜はやはり、日本の春の儀式のシンボルだ。

祭りも終わって、「さくらまつり」と書かれた提灯だけが、木々につながれたまま
ゆらゆらと揺れている。
もう今日あたり、この提灯は片付けられることだろう。
地域のみなさま、本当にお疲れ様です。毎年ありがとうございます!

次、この道を歩くときには、なくなっているはずだ。

父の名前が書かれた提灯に近寄り、立ち止まって、父の顔に触れるように
少しだけ撫でる。
人が通ったら、おかしな人と思われることだろう。

「今年も、桜終わったね。また来年会おうね。元気でね」と、言葉をかけ、
少し名残惜しく、そこを立ち去り、駅に向かう。

元気でね。は、自分に向けた言葉である。
来年、また父のこの提灯に出会えるように、この地が平和のままで、桜の
木も元気で、そして地域の皆さんも元気で、自分も元気なままでいられるように。
父との思い出をたどる、大切な場面、時間を大切に生きたい。
そんな願いを込めて。
生きていれば、すべてが動き続ける。

「お父さん、またね。桜の季節にここで会おうね。」

カテゴリー: Essay (Word) パーマリンク