実に久しぶりに吸い込まれるように感動した映画。一度見ては再び、再びと何度も何度も観ることになる。ストーリーも音楽もセリフもすべて覚えるほどに作品と一体になりたくなる。今回、何年かぶりにそんな映画に出会った。それは「パガニーニ」。私の音楽人生に影響を与えた一人でもある。あの難しすぎるリストの「パガニーニの主題による変奏曲」。高校の卒業演奏会。体力なしに弾けないあの難しい曲の生みの親、パガニーニの半生を描いた作品。キャストも素晴らしいが、とにかく美しく、悲しく、激しく・・。自分が苦労したあの変奏曲を、いとも簡単に主役のバイオリニスト(ディビット ギャレット)が操っているのを震えながら聴き入る。そして最上の逸曲は、バイオリン協奏曲からアレンジされたアリア「愛しい人よ」。ディビッドが歌曲用にアレンジしたもの。生涯出会った楽曲で最も美しい・・・と思うほど新鮮で、自分の中に深く染み入り、何度聞いても涙し、ああ創るならこのような美しい曲だと新たな目標にもなり・・。この曲に魅せられて1か月の間に三度も劇場に足を運び作品を観続ける。3回目の鑑賞後、劇場を出たとき同じ映画を観たカップルと一緒のエレベータになり、彼らの会話を耳にする。今観た映画の感想を話し合っている。自分の感覚とまったく違うことに驚く。「なんかさー、ロックスターの映画みたいだよね」「あのマネージャーみたいな怪しいおっさんへこういう世界にありがちだよね」「あの瞬間、主役がジョンレノンに似てたよね」と軽い感じでげらげら笑って評している。へ?この映画をそう観るんだ。泣かないんだ。その人たち自体がロックミュージシャンのようだった。確かにこの主役のバイオリニストはロック風に演奏する人でもあるからわからなくもないが、でもそこをみるか?と不思議に思えるが、人それぞれだ。そう映画でも絵画でも、いろんな受け留め方があるから面白いのかもしれない。どこを見る、どこが気になるかは人それぞれ。そして、作り手の想像を超えた受け留め方をされることもあるだろう。どんな風に観ようが、感じようが受け手の自由。芸術はだから、面白い。