いろいろ頭を整理したいとき、冷やしたいとき、何も考えたく
ないとき、少し普段と違う世界に身を置きたいとき、自分に話しかけたいとき。
気分転換をする方法は人それぞれである。
コーヒー、紅茶、たばこ、ウォーキング、映画、ヨガ、スポーツ・・・。
私の場合は、コーヒーも紅茶もウォーキングも映画ももちろん
選択肢であるが、気が付けばピアノを弾くことが、一番の気分転換、
癒しの存在になっている。
改めて振り返れば、子供のころからそうだった。
親に怒られたあと、すぐにピアノに向かう。何かあったらピアノに向かう。
鍵盤の上で指を動かし、流れてくるメロディーに耳を澄ましながら
嫌なことを流していく。
さっきまで悩んでいたこと、気になっていたことも、ピアノのおかげで
違って見えてくる。
まるで、親友に話を聞いてもらったあとのような気持ちだ。
頭の中でメロディを追いかけながら、自分との対話を続ける。
そんな時間がもてることで、バランスをとることができるのかも
しれない。
1時間ほど何も考えずにショパンのノクターンや即興曲やベートーベンの
ソナタを途中つまりながら、繰り返しながら弾き続け、指先と頭をぐるぐる
めぐる。頭にはびこる雑念を音に流し、頭を切り替えて、次のライブで
演奏する曲目をさらう。だんだん前向きになってくる。
そして少し疲れたら、ここで今日はおしまい。と楽譜を片付ける。
前向きになりながら、心の洗濯もでき、すっきりする。
そして、ピアノの蓋を閉じながら、
「ありがとう。ずっと一緒だからね」
と黒いボディに話しかけ、そっと撫ぜる。
そう、ピアノが親友なんだ。
ずっと意識してこなかったけれど、この半世紀、ピアノが
親友だったのだ。
しばらくおきざりにしていたくせに、この数年の間にその親友と
再会し、その対話の時間に、今とても救われている。
親友は人間とは限らない。
人によってはギターのこと、愛車のことも・・・。
私の場合は、まずピアノ。
生涯の友。決して裏切らない友。いつもそこにいる。
それを、親が遺してくれたことに、心から感謝だ。
もちろん人間の親友も大切に。