タイムトリップできる指定席。

その存在をずっと忘れていた。30年以上前に通っていた喫茶店。
その当時は、京都には名曲喫茶、あるいは純喫茶と言われたお店が何店舗かあった。
流れるクラシック音楽、コーヒーの香り、そして店によっては葉巻やたばこのにおい・・・。そんな店内で、静かに本を読んだり、あるいは仲間とひそやかに語ったり、
ひとりで考えごとをしたり・・・。
喫茶店といえば、モーニング、外食というのが主流であった東海地方の片田舎出身の
自分としては、こんな次元の違う喫茶店は、異国へ旅をするような、特別な経験をさせて
くれる貴重な空間であった。

毎日通うことはできない。本当にハレの日の訪問先としての存在・・・。
その店のことがテレビで放映されると、ああ、まだあったんだ。ととてもうれしくなった。
そして、時々その店の前を通ったtき、やってるかな?と覗き込むと、鍵がかかり、店内は暗い。もうやってないのかな・・残念・・・。
ということを何度か繰り返し、最近、また諦め半分で前を通ったら、開いていた!!!

ああ、まだご健在!うれしくてすぐ中に入る。
足を踏み入れた瞬間、あの当時、その世界が広がった。
そして、アンティークなボックス席・・。
たちまち胸がいっぱいになる。

すると、隣の方の席から、声の様子から想像するに80代後半?ぐらいのおじい様たちの
会話が漏れ聞こえてくる。
「あの当時はですな、私ら・・・へいかねばならなかったもんです。今は平和ですなあ。
でも、今、ロシアはえらいことになっておりますが~」
「ほんまに、あの当時は・・・」
と戦争のときのお話しをされているようだ。
その言葉はゆっくりではあるが、話は通じ合っているようで、勝手な妄想をさせていただけるならば、久しぶりにお仲間と、このお店で再会された・・・。

ふと、そのお二人が若いときも、この店で、この席で他のお仲間たちと話をされていたのでは…。

生きていれば、元気であれば、ここに来たら、若いころに戻ることができる。
という夢をかなえてくれるお店は、本当に素敵だ。

京都にはいくつかのそういった店があり、歴史を大切にしながらも、時代に溶け込み
生き続けている・・。
そうだ、また、あの席に座りに行こう。
タイムトリップできる「指定席」。
これがあると、人生はとても豊かで楽しくなる。

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