弔意と感謝の黒シャツ。

このたびの公演の衣装は、といえば黒と決まっていた。
今回に限らずだいたい、演劇の際の生演奏のときは、黒スタイルと決めている。
役者さんたちは白っぽい衣装で明るく、演奏側はまさに黒子で舞台を支える
感じだ。
この黒い衣装も選択が難しく、演奏しやすいもの、また扱いしやすい素材。
そして、会場の室温によって、暑すぎたり、寒すぎたり・・・。で困らないように
備えが大切だ。
いろんな面で、衣装選びは、難しい。だからいつもつい、多めに持参する。

さて、今回はこの季節だから、きっと冷房で室内は冷えて、寒くなるだろう。
と、気づいたのは移動しはじめてから。
ああ、1枚あった方がいいな。持ってくるのを忘れた・・・。
長時間じっと座って演奏するのに、寒暖の不安は禁物だ。

じゃ、仕方ない。出先で1枚何か買おうかな。
ふと、先日、亡くなったイッセイさんのことが頭に浮かんだ。
そして、そのまま宿泊先近くのデパート内の売り場に行った。

ないかな?と思ったら、偶然、シンプルな黒いシャツを発見。
私の方を向いているようにも、思えた。
「あ、これ!いいかも。」
時間もなかったため、瞬間の衝動買いをしてしまった。
1枚あれば、安心安心。
ちょっと張り込んでしまったが・・・。

宿泊先ではハンガーに吊るし、楽屋へも持ち込んで、
イッセイミヤケのことを、毎日思い出した。
この四半世紀、この衣装に支えられ、助けられたか・・・。
各お店のこと、そこで出会った多くのスタッフたち・・・。

たまたま舞台衣装としての黒シャツであったが、
実は弔意を込めての1枚でもあったのだ。

実は、今回、舞台中、寒くなることがなく、着る機会がなかった。
そのまま、持ち帰り、ずっとハンガーに吊るして眺めながら、
イッセイミヤケを偲び続けている。
もちろん、秋からのコンサートではこのシャツも、活躍するだろう。

これからも、イッセイの偉業に感謝し、かっこよくいい仕事をしたい。
衣装によって、働き方が変わる。
本当に、それを教えてくれたのが、イッセイさんだった。

次代にもその精神をきちんと受け継いでほしい。

黒いシャツ。
弔意と感謝の一枚。
そういえば、黒シャツは、この1年、着る機会が増えている・・・。

哀しみを消して、寂しさを包み、
今日も明日も、強く、深く生きるための色。
そんな風にも解釈している。



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