花のある、笑顔の人でした。

京都で仕事をしていてよかったな~。と、20代のときそんな風に
思った仕事のひとつ。それが市田ひろみ先生にお会いできたとき。
今と同じ場所にあるホテルの隣の美容室へお邪魔したとき、
先生は、テレビのコマーシャルで見るように、ほんとうに気さくで
笑顔の素敵な人だった。
取材のあと、写真撮影のときに、「こっちから撮って」と、ご指定の
向きがあったことを思い出す。
自分がどの向きで写ったら一番きれいかをよくわかっておられた。
さすが女優さんだ。

その後も先生の民族衣装のコレクションに興味があって、大阪や
京都での展覧会には何度か足を運んだ。
一度、お手紙をいただいたこともあったと思う。こんな小娘にまで・・。
何事もきちんとされている腰の低いお方だと、その姿勢に頭が
下がったことを思い出す。

その後、あのお茶のコマーシャルに登場されて、なんだか知り合いの
おばちゃんがテレビに出ているような、勝手な親近感があって、見るたび
いつも嬉しかった。
本当に、あのままのお方であった。
最後にお姿を拝見したのは、19年ほど前。京都駅にあるデパートの
美術館での展覧会。
まったく30年前とお変わりなく、凛とされ、美しく、また話も
面白く・・・。
そのときも変わらず、誰に対しても上から目線でないところも、
やっぱり素敵だと思った。
話もとても楽しいから、人が集まった。

女性が仕事をするということ。一流ということ。しなやかで強いということ。
何度もお話ししたこともないけれど、はたから見ているだけでも、本当に
ステキな生き方をされていると憧れていた。

そんな市田先生が亡くなったと、ニュースで知る。
ちょうと、京都出張に出る日であったため、絶対にお店へ行こうと思った。
仕事を終えてから、花屋さんに寄って、先生の美容室に出かけることにした。
花屋さんには先に電話をして、アレンジメントを作ってもらっていた。
花を受け取るときに、先生は生前このお花屋さんをご利用されていたようで
お店の方が、「本当に花のある、笑顔の素敵な方でしたね~」と言われ、
本当にそのとおりだと思った。

緊張しながら美容院にたどりつくと、お店の入り口に、先生の大きな写真が
飾られていた。
とびっきり美人の素敵な写真だ。きっと先生はこの1枚と決めておられた
のだと確信するほどに、格別の着こなし、素敵な笑顔。最高の作品だ。
今にも、そこからあの声が「おおきに」と、聞こえてきそうな気配がした。

先生はこの地で長年お店を経営されながら、ライフワークのきものをはじめ
とした民族衣装の研究をされ、世界中を巡っておられた。
そして、90歳での旅立ち・・・。

最近まで、自分の親のことを死なないと思っていたように、
先生も永遠の存在と思っていた。
でも、旅立ってしまわれた。

美容院でご挨拶をして、帰りに隣のホテルのロビーを通ったら、ひまわりが
いっぱい飾られていた。今度は、先生の笑顔に見えてきた。
悲しいときも、しんどいときも、笑って乗り越えてこられたんだろうな。
もっと手紙を書いておけばよかった。

市田先生、ありがとうございました。安らかにお眠りください。
本当に花のある、笑顔の人でした。私も、見習います!一生及びませんけれど。

カテゴリー: Essay (Word) パーマリンク