選手の気持ちがよくわかる本番。

どんなに練習がうまくいっても、本番は違う。
オリンピックの様子が報じられる毎日。選手によって、
その結果は悲喜こもごも。
前評判や期待が良すぎると、その重圧も大変だ。

本番を成功させるには、さまざまな要件を満たす必要がある。
練習は大前提。技を自分のものにしなければならない。
そして、ものすごい集中力。ほどよい緊張感。
そして外的な要因が揃っていることも必要要件。
普段と環境が変わりすぎると、うまく力が発揮できないこともある。
それらすべてが融合され、当日の力になる。

オリンピックを見ていて、特にフィギュアスケートはすごいと思う。
ずっと見られている。転倒してはいけない。それだけでもすごいのに、
その上で四回転半とかするのだから、まさに、神業。
どんな戦いが自身のなかで、繰り広げられているのだろう・・・。

さて、コロナのなか、朗読劇公演がはじまった。
雪もとけ、太陽が降り注ぎ、まずは安心。
だが、初日はとにかく緊張するものだ。
リハーサルまでとは、やはり勝手が違う。
お客さまが入ることで、場の空気ががらりと変わる。
こんな状況で、ネット配信ではなく、来場される人はかなりの
マニア、ファン。変わった人。有難い限り。
そして、初日にこそ観たいという人が来られる。
だからこその緊張がある。
また初回公演は、どうなることやら?の心配もつきまとうもの。

その本番。
朗読劇はピアノではじまり、ピアノで終わる。
さあ、出だしは手もあたたかく、普段どおりのスタート。
そのあと、劇が進み、自分の出番を待つ間、だんだんと
寒さが増して、手がかたまってきた。
手もとにカイロをもっていたが、全身が冷えてきて、
焦ってくる。
まずい。なんで、こんな寒いんだろう
(後で確認したら、自分のまわりの会場の暖房がOFFに
なっていたようだ・・・)

とにかく、じっとしているのがたまらない。
ずっと弾いていれば動く指も、止まっていると固まる。
鍵盤の上で、指を動かしているが、どうも違う感覚だ。
手がかじかみ、劇の途中で弾き始めるときに、うまく音が出るか?
指が動くか、練習の時には、これまでの本番では味わったことの
ない不安が自分を襲う。
指がかちかちになりながら、なんとかなんとか、進んでいく。
フィナーレに向かう。
クライマックス。何があっても止まってはいけない。
演奏ですべてが作品が終わる。
そこだけは死守せねば。
まさに、氷の上で、転ぶな転ぶなと自分に言い続けている
選手のようになる。
なんとか、切り抜け、初回を終わる。
良かった!みなさんさすがプロ。という声をいただき、
少し安堵。
でも、
こんなに寒くなるとは。
お客さんには関係ない。なんとかしなければいけない。

早速2回目に向けて、衣装や暖房や、さまざまな工夫、改善をする。
環境を変える。足元にストーブもおき、待ち時間は手袋も・・。
落ち着きも出てきた。初回よりノリも少し出てきたか。
まずは、滑らないように、止まらないようにが最低要件。
などなど、とにかく無事2回目を演じ、初日を無事終わった。

本当に選手の気持ちがわかる、本番の怖さ。
コンディションを整えるということは、カンタンではない。
アカギレとの戦い。液状ばんそうこうを指先に着け続け、
今日も戦いにのぞむ。力士のシップと同じだ。

こうやって場数を踏んで、だんだんうまくなる。
役者さんもそれぞれ自身との戦いをしている。

今日は二日目。
だんだんうまくなるはず。
この緊張との戦い、自身との戦い。
この積み重ねで、本番力が養われる。
シングルのコンサートとは違う、チームワークの大切さ。
みんなで作り上げる、ひとりが欠けても成功しない。
他の仕事にも活かせる、とても貴重な経験。

遠方からも、さまざまな応援をいただいている。
有難い限り。
その声を、今日の演奏に!
プレッシャーを楽しみに。
今、そっちに向かっている。
だから、アーチスト業もやめられない。


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