ピアソラが創る曲は、私にとって、抱きしめたくなる存在だ。
そのなかでも、オブリビオン(OBLIVION)~忘却~を最初に聴いたのは、
おそらく、20代の頃。若かったのに、よくピアソラの世界を知ったものだ。
学生時代、文化度の高い、良き仲間に恵まれたおかげ。その影響は大きい。
その生演奏は、おそらく渋谷の文化村でのコンサートであったように記憶するが、来日していたイタリア人のミルバとピアソラのバンドネオンの協奏が実に美しく、実に切なく、心に心に染み入った。
あれから30年を経た今も、聴くたびに弾くたびに、深い心の旅に誘われている。自分のライブでも、バイオリンや尺八とのデュオをしたりしてきたが
ほんとうに美しく、大好きなレパートリーのひとつ。
久しぶりに、今度はソロでやってみようと思っている。
ピアソラの曲を弾いていると、ブエノスアイレスの空が心の中に広がる。
そして、あの町で出会ったさまざまな人たちのことを思い出し、
みんな元気かと、しみじみ思い出す。
日本からもっとも遠い地球の反対側にある国アルゼンチン、そのなかにある
南米のパリ。
ピアソラを弾きながら、自分がブエノスアイレスの空を思いながら作った
ワルツを弾き巡る。途切れなくメロディが湧いてくる。そして、
町の風景が、まるで360度カメラのように見えてくるから不思議だ。
会いたい、歩きたい、タンゴに触れたい・・・。みんな、元気かな。
転びそうな凸凹の道。ちょっと治安の悪い裏通り。
華やかなタンゴ。サッカーに熱狂する人々。
とにかく、今は、早く海を渡りたい。
コロナから2年。
海を渡ることを忘れてはいない。
久しぶりに、ブエノスアイレスの空の写真を引っ張り出す。
こちら、ピアソラが眠る墓地の入り口の庭だ。私の好きな紫の花、
ジャカランダが咲いている。
抱きしめたくなる風景。この空に浮かびたくなる・・・。
ブエノスアイレスとは、「いい空気」。本当にいい空だ。
コロナとは無縁のような世界に思える。
みんなこの空のもとで、今も元気だろうか?
今日も心を自由に、そしてこんなきれいな空のように、素敵な一日を。
と、こんな一枚からも、自分の世界を広げる。広げられる。