夜中に電話で目が覚めた。
最初寝ぼけて、状況が理解できなかったが、父の容態が急変したので、
すぐ来てほしいとの施設からの連絡。夢かなと一瞬思ったぐらい。
電車もバスもない時間。妹に寄ってもらい、車で一緒に父の施設に向かう。
正直、出発する前の準備時間は、自分でもよくわからないぐらいに、
混乱していた。何をもっていけばいいか、あれもこれもと・・・。
部屋のなかを、うろうろしていた。
そんな自分を落ち着け、落ち着けと言い、深呼吸。
そして、移動時間。真夜中の道路は、トラックしか走っていない。
スムーズに移動できるが、この時間も複雑だ。
万一のときのこと思うと、たまらない気持ちになるのと同時に、冷静に冷静に・・といろんな場合の対応を考えた。幸いにして妹がいることで、
いろんな会話もでき、段取りもついた。また自分の考えも伝え、共有もできた。
1時間もかからず、施設に到着。まさに真夜中。昼間見る風景と違う。
夜中の訪問。まさに緊急事態だ。
夜勤のスタッフが待っておられ、すぐ中に入れていただき、
父の部屋に入らせていただき、ベッドに横たわる父の顔を恐る恐る覗き込む。
「お父さん、お父さん、来たよ。お待たせしたね」
父に近づいて、必死に声をかける。
ハーハー、ハーハーと息をしている。
息が止まったら、もう最後だ。
息を止めてはならない。
とにかく
「お父さん、お父さん。」
妹と交互に、いろんな過去の思い出を語りかけ、
母と一緒にうつっている写真を見せ、
とにかく意識が回復するように、働きかける。
すると、うつろな目をしていた父が、私の目をじっと見つめ始めた。
じっと見ている。
そして、言葉をかけると聞いているのがわかる。
時々瞬きをする。
「あ、いい感じ。お父さん、寝たらあかん。
お父さん、がんばって目をあけて」
気が付けば夜明けまで、父の横で、妹と交互に言葉をかけた。
父の目力を感じた。しっかり聴いている、ちゃんと反応している。
「生きてるぞ。俺は生きてるぞ」
と目からうっすら涙を浮かべながら、と、私と妹に訴えてくる。
私も父の目を見て
「お父さん、お父さん。昌子。わかる?一緒に東京行ったね。
覚えとる?スカイツリーもいったね。韓国も行ったね・・・」
目を見ながら、言葉をかけ続けることで、父の目力が強くなって
いくのを感じた。
言葉は、もう発しないけれど、目でモノを申している。
朝方、父は疲れたせいか、普通に眠った。
回復したような、峠は越えたようだ。
「あれ?これ、いつものお父さんやね」
と少し安心。
しかし、老衰のため、予断は許さない。
施設の皆さんの夜勤の状況にも接しながら、こういった緊急時の
夜を過ごした。
父の目力、しっかり私の中に刻まれた。
まだまだ生きてほしい。
心配な日々は続く。が、心配できることは幸せだ。
しばらく、携帯を枕元において休む日々が続く。
今日も父に目力パワーを注入したい。
最後の瞬間まで・・。悔いないように!
「もうちょっと がんばろう!ね!」