「大きな古時計」という歌がある。
おそらく、どの人も小学生の頃に覚え、近年でも有名歌手がカバーしていたり・・・で、世代を越えて、お馴染みのメロディだと思う。
私自身も、ライブでよく歌う。歌いやすいというのもある。
大人になってから、だんだん意味がわかってきて、泣ける曲だ。
♪大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計・・・♪
で始まる。
さて、今、私の手もとにある、ひとつの時計。
♪小さなバンドの腕時計 としこさんの時計・・。♪
とこんな風に替え歌にしようか。
そう、よれよれバンドの古い腕時計。とても安価なものだ。
この時計を、母が救急車で運ばれた後、看護士さんから
貴重品として、受け取った。
「はい、こちらお母さんが付けておられた時計です。と
一緒についていた輪ゴムも・・・」
と思わず、笑えてくるあの場面。
今にも死にそうで、ハーハーと息している母の横で、
そんな風に看護士さんに渡された腕時計。
実は、私はその日から、葬儀の日も、いつもずっとポケットに
入れていた。
今は出張に行くときも近くに行くときも、バッグに入れて持ち歩いている。
「さあ、出かけようか」という感じで。
その時計。先日、動かなくなった。
母がしていた時計の時が止まるのは、困ると思った。
そして、電池を入れ替えた。
お店の人が、あまり古いので、
「電池を変えてももし、動かなかったら、お代はいただきません。
それと、ベルトもついでに変えておきますか?」
と親切に言ってくれる。
「なんとか、動くといいですが。ベルトは変えなくていいです」
と言って、預けた。
後で、受け取りに言ったら、時計が動いていた。
母が生き返ったような感じがして、うれしくなった。
そして、
大きな古時計のメロディが流れてきた。
♪百年休まずにチクタクチクタク、としこさんと一緒にチクタクチクタク・。♪
そう、この時計はずっと持っているつもりだ。
いつも一緒に出掛けるつもり。道連れ、という感じで。
今思えば、亡くなるニ三か月は、目の調子も良くなかったので、
もしかしたら、時計の文字盤も見えなかったかもしれないけれど、
毎日時計をしていた。
さあ、今日も出かけるぞ。
そんな意気込みだったのかもしれない。
古い腕時計とともに、母の意気込みも一緒に抱えていこう。
細いあの手首で、ずっと母を見守っていた時計には、
1日も長く、生き続けてほしい。