店という特別な空間。お客様には、五感で感じていただきたい。
もちろん料理を提供するお店であれば、その料理の見た目、食器から、接客にいたるまで、すべてがお客様の満足につながるものでなければならない。
その満足をさらに高めるための演出が、フラワーアレンジメントであったり、
店内ディスプレイであったり・・・。
そして、音も大変重要な演出のファクターだ。どんなBGMが流れているかでお店のセンスと質がわかる。そしていい曲だと聴き入ってしまい、長くそこにいたくなる。
BGM。まさにバックグラウンドミュージック。主役になってはいけない。
でもできる限り、お店のコンセプト、イメージ、サービスに似合う音色がいい。
以前、ある野菜や食材にこだわるレストランで、有線チャンネルからピアノ演奏を流していた。たしかにピアノではあるが、どこか人工的で機械音の限界も感じ、あまり料理を引き立てていないと感じたことがあった。無機質な音と有機野菜が合わない感じがしたのだ。ではあるが、これはこちらが勝手に感じたこと。
選ぶ人の感性も大変重要だ。
こだわりの珈琲店にはジャズやクラシックが良く似合う。
音楽によって、店を選ぶこともある。
さて、このたびリニューアルした楽器店の楽譜売り場。
楽譜を探すときは、書いてある譜面を見ながら、メロディを確認し、ああ、この曲だ。と、理解してから楽譜を購入する。
そのお店は、リニューアル直後で、お店が快適になりました。といわんばかりに
スイング系のジャズを流していた。
確かに、一歩店に入ったときは快適。お、いい感じ。さあ、楽譜探そう!
と楽譜の棚の前まで進む。
しかし、クラシックの楽譜を手に取った瞬間、ジャズの弾むリズムが、クラシックの楽譜の読み取りを遮ることに気づく。
静かな空間であれば、頭のなかに楽譜を見ることで、その♪がそのまま頭の中で広がるが、ジャズのリズムに流されて、楽譜が読み取れない。♪が頭に描かれないのだ。
ああ、楽譜売り場にBGMは要らないな。邪魔になる。静かな方がいいな。直観的にそう感じた。図書館と同じだ。
ピアノの楽譜ですらそうだから、オーケストラの楽譜だと尚更だろう。
楽譜を探すには、BGMがない方がいい。
困ったな~と思っているときに、店員さんが品出しに売り場に現れた。
「すみません・・。」かなり小声で話しかける。
「あのー、大変申し訳ないのですが、クラシックの楽譜を見るときは、ジャズが流れていると気になって、楽譜が選びづらいんですけど・・・。いい音楽が流れているので申し訳ないのですが・・・・」というと、店員さんは意図を察してくれて、
「ああ、すみません。そうですね。教えていただきありがとうございます。」
といって、すぐバックヤードへ行き、すぐボリュームを下げてくれた。
かなり小さくなった。鳴っているかどうかわからないほどだ。
まあ、これぐらいなら、楽譜の読み取りの邪魔にはならない。
早速、ショパンの一冊をみつけ、確認して、レジに向かう。
帰り際に、マスク越しに店員さんと目くばせをしながら
「ありがとうございました」と、言い合う。
いい店は五感でお客様を喜ばせてくれる。
そして、快適にストレスなく、目的が達成できるよう、臨機応変に対応してくれる。
お客さんの声にも耳を傾け、すぐ行動をとってくれる。
このコミュニケーションを重ねることで、お店はさらに磨かれる。