笑うに笑えない、でも笑ってしまう話。
生前の母に会った最後の日。緊急搬送され、救急医療センターの部屋で酸素マスクをつけてハーハーと息をしていた。
検査がひととおり終わって、細菌性髄膜炎の疑いあり。と告げられ、入院となる。かなり事態は深刻。重い気持ちで待合室から病棟へ移動。
そのとき、看護師さんが、大事なことを思い出したかのように、
「お母さまが身につけられていた貴重品をお渡ししておきますね」
「あ、はい。」(何?)
看護師さんが、ジブロックの袋に入ったそれを渡してくれて
「え、っとお母さまが身につけられていた 数珠と時計。それから、輪ゴム。
以上、お返ししておきますね」
と中身を見せながら、説明された。
輪ゴム!輪ゴム?輪ゴムか~。
そうだ、確かにいつも、私が幼い頃から、いつも手に巻いていた。
いつも何かに役立つから・・と。カラーゴムならばブレスレットいらず・・・。
でも、貴重品か・・・。
看護士さんもマスクの下で笑っていたかもしれない。
「輪ゴムですか~。はい、ありがとうございます」
横で必死に呼吸している母。
朝、搬送されるまで、この数珠や時計や、輪ゴムを身に着けていたのだ・・・。
それから、母の荷物を整理していると、各バックの中に、必ず輪ゴムが出てくる。
そのたびに、最後に母にあったときの看護士さんとのやりとりを思い出して、ひとり泣き笑い。
輪ゴムは貴重品だ!
母がそう言い残していったのだ。
今、確かに以前より、輪ゴムの価値を意識するときが増えている・・・。