ガラスドア越しで、対話。

2回目の緊急事態宣言より先に、面会制限をとりはじめた介護施設。
とくに入居者を抱えるホームでは、外からの接触を避けようと徹底。
その状況はもちろん理解でき、そうしなければ、万一、施設に感染者が
出たりしたら、大変だ。だから、家族の協力も欠かせない。
でも、だからといって、まったく家族への関わりをなくすのはよくない
と思い、週に何度か可能な限り、差し入れや手紙を届けた。
今回も、受付で渡すだけのつもりで訪問。すると担当の職員さんが
「今、ちょうどお父様、近くにおられますので、お連れしましょうか?
ただ、玄関のドア越しでお顔見ていただくだけしかできませんが・・」

そうか 近くにいるなら、ぜひ!ということで、父が職員さんに連れて
もらって現れるのを玄関で待つ。玄関のドアはガラス。だから見える。
2~3分で車いすに乗った父が職員さんとともにドアの向こうに現れる。
1メートルぐらいしか離れていないが、ドアは閉鎖されているため
顔は見えるが、声は聞こえない。

新年、顔を見たのは、初めてかも。
「お父さん、元気?元気?わかる?」
誰もいない玄関で、ひとり大きな声で、父に聞こえるように話しかける。
「コロナやで、会えんで、ごめんね。」
「おやつ、今日も持ってきたよ。プリンと今朝つくったおにぎりと・」
「チューリップも持ってきたんで、職員さんにどっかに飾ってもらやーね」
など、父に話しかけながら、自分がもってきたものを袋からひとつづつ
取り出して見せる。ゼスチャーで、父に話しかける私。
プリン、おにぎり、チューリップ・・・袋から次々出して見せる。

半年前と比べて、随分と静かになってしまった父の表情は乏しいが、
それでも、かすかに反応しているのがわかる。
「で、手紙も書いてきた。お母さんも書いたよ」
とハガキも見せたら、泣いているような・・・。

こっちも、この状況に泣けてきた。
ドアの向こうにいる、すぐそばにいるのに・・・遮断されている。
「お父さん、お父さんコロナ終わったら、外に出かけようね。」
「また、来るで、元気にしててね。じゃあね。またね」・・・

父が手を振った。そして職員さんにさっきまでいた部屋に連れて
行ってもらうのを、ドア越しに見送った。

その後、差し入れを職員さんに渡して、帰った。
外に出た瞬間、涙があふれてきて、駅に着くまで、ずっと泣きながら歩いた。
元気でいてよかったという気持ちと、コロナでまともに会えない、
こんな形でしか会えない、もしこれから感染したり、何かあったら
もう会えないかも・・という気持ちと父のなんともいえない表情の
乏しさの中の涙・・・。
どんどん変わっていく。どんどん別れが近づいているのだろうか・・。

ドア越しの面会。
コロナは冷酷だと、今回そう感じた。
でも、まだ会えたから、良かった。

めげずに、時々差し入れを継続しよう。

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