並んで話そう。

施設で暮らす父との会話。
役柄的に言いたくないことを伝える役回りになることが多く、
これまでは、言わねばならないことだけを、伝え、ときには
その言い方で、父が反応して、喧嘩のようになってしまうこともあった。
向き合い、目を合わせて、話すということは、ビジネスシーンでは有効、
相手や時によって効果的であるが、それが火種になることもある。

同じ繰り返しはいけない。今日はしっかり話さないと・・。
どうやって話すといいのかなと電車での移動中に思案する。

「こんにちは」
父は静かに部屋の椅子に座っていた。
その横にもうひとつ椅子が並んでいる。
そのまま、そこに座った。
そう、向かい合うのではなく、並んで座る。
父は実際、シャイなので、目を見て話すと威圧感を感じることがあって
抵抗してきたこともあった・・・。
並んで話すと、なんと穏やかなことか。

そこから、今後のことについて、話しづらいことも含め ひとことひとこと
ていねいに話していく。
わかっているのか、寝てしまっているのか静かなため、
「きいてる?」というと、
「きいとる」
「わかった?」というと、
「わかった」
という。
そうだ、父との対話は、並んですればよい。
こんなことに今ごろ気づいたのだ。

今伝えなければならないことを、しっかり伝え、
父もそれに反応しながら・・・決して今日は楽しい結末になる時間では
ないのに、それでも父とのいい時間がもてた。
「がんばって仕事もしてくるね。」
「ありがとう、悪いね」
と、そんな言葉がかえってきて、ちょっと気持ち悪いほどにやさしい。

コミュニケーションは、向き合う場所、角度も大変重要だ。
また目が向き合う以上に、心が向き合えるようになる工夫が大切だ。

人間とは自分勝手なもの。こんないいお父さんならば、もっと長生きしてほしいと思ってしまうのだ。
孤独を感じさせないよう。少しでもできることをしようと改めて思う。

人生の春夏秋冬。父は今、晩秋か冬か・・・。冬眠する前にもっと話さねば。
今度から、並んで、話そう。

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