賞味期限が切れそうな、おせんべいが箱に入って、ずっと見える場所に
おいてあった。
新潟の手作り、こだわりのもののようだ。
これまで見たことも買ったこともない会社のもの。
実は、4月の初めに送っていただいたもので、
きちんと包装されており、開けるのももったいない高級なお菓子。
その送り主が、その月の後半に、亡くなられた。
コロナの影響で、その報せも後で知ることとなった。
私には、その方が今年書いてくださった年賀状、
闘病中に何年間も続いたメールの履歴と、そのお菓子が遺された。
形見のようなお菓子になってしまった。
いつも美味しいものを送っていただき、その方がお好みのカステラをこちらから
送って喜んでいただいた。
そのせんべい。賞味期限が迫り、そして過ぎた・・・・。
これを食べてしまうと、その人が消えてしまいそうで
ギリギリまで、持っていようと思っていたが、さすがにもういただかないと
・・・。
心を鬼にして、
「みちこさん!いただきます」
そう言って、そのおせんべいを開封する。
あ、まだ大丈夫だった。あ、おいしい。めっちゃおいしい。歯ごたえも醤油のシミ方も、さすが米どころの地元の会社の御煎餅だ。
心のなかで、「みちこさん、おいしいです」と合掌。
彼女が最後に送ってくれたこのお菓子。なぜ、これを選んでくれたのかな?
「おいしいですよ、これ!いいでしょ?小千谷のですから」
と声が聞こえてきそうだ。
最後の贈りもの。
涙が出そうなおせんべい。
この味を一生忘れない。そして、このおせんべいを、今後自分が買えば
あの方にまた会える、そんな気がする。
そのおせんべい。まだある。大切にちょっとづついただいて、みちこさんとの
語らいの時間を思い出そう。
これから人に何か差し上げるとき、それが最後になってもいいように、
心して品を選ぶとしよう。