一杯のコーヒーde親孝行

入院中の父が!初めて携帯に電話をしてきた。
何だかよく聞き取れないが、できたら来てほしいという言葉。
リハビリもがんばっているし、まさか何か緊急事態?と仕事を中断し、
電車に乗って病院に向かった。
父は比較的元気で、ちょっと拍子抜け。
何事かと思った・・すると、父はもうここを出たい。もうここは嫌なんだ。周囲がどんどん退院していくのに・・。という悲しさから、私にどうなっているんだ!と確認したく、呼んだ模様。
さすがに、自分はいつまでここにいなければならないかと思うと、心は錘になるのはよくわかる。あまりに気の毒なので、思い切って、看護師さんに許可をもらい、父を院内のカフェに連れ出した。
許可が出たので、安心。外に出たいという父の願い。とにかく病室から出たいのだ。

院内にあったのは某チェーンコーヒーのお店。
何を飲むときくと、コーヒーがいいという。ま、看護師さんがOKといったから良いか・・。
アメリカンにしてもらう。
テーブルで待つ父にコーヒーを届ける。
うれしそうに砂糖の袋を開けて、少し震える手で砂糖をコーヒーに入れる。
そして、一杯飲む。ゆっくり味わう。
なんともうれしそうにその瞬間をかみしめていた。

「おいしい?」

父は黙って頷く。

「5か月振りのコーヒーや」

入院前日のときのことを思い出していたのだろう。

ゆっくりゆっくり薄目のコーヒーをいただく。

半分ぐらいで1、もういいといった。

「楽しかった?」父は大きく頷いた。

「忙しいのに、申し訳なかった。ありがとう」

父が乗った車いすを押して、病室に戻った。

心なしか、とても父がリラックスし、落ち着いた感じがした。
もっと早く連れていってあげたらよかった。また行こう。

カップ一杯のコーヒー。これで父が元気になる。

やっぱりコーヒーが好きなんだね。それぐらい飲ませてあげなくちゃ。

なんだかとてもいい親孝行をした気持ちになった。

カテゴリー: Essay (Word) パーマリンク