父が入院する病院にあるグランドピアノを見つけ、コンサートを行うことになった。3月初めの開催ではあるが、一度、どんなピアノなのかを確認しておきたい。と、そんなことで、年末の土曜、許可をいただき、30年もの間病院のロビー奥に鎮座する立派な木目のグランドピアノを触らせていただく。クラシック、日本の曲、ジャズ、タンゴ・・・どんなジャンルに合うかは、ピアノの音色により変わるため、先に触っておくことは重要だ。触った上で、演奏曲目を検討する。また鍵盤の硬さや響き方によっても準備も心構えも変わる。
同じピアノは世の中にひとつもない。
こちらの名器は、とても滑らかで弾きやすい高級ピアノ。
調律もこまめにされているようで、よく音も出るため、演奏会にも適している。
ずっと弾きたいけれど、係りの人に申し訳ないので、
そろそろ試し弾きをやめようかと思ったら、
ピアノの前にある院内のカフェスペースからおひとりの男性が近づいてこられた。
「あの、リクエストやってくれるかな。」
「今日は、リハーサルで、コンサートは3月ですが」
「いいやん、リハーサル中でも。あれ、クロード・チアリの『禁じられた遊び』弾いてくれる?」
と言われ、瞬間、クロード・チアリと、リチャード・クレイダーマンが
重なって??となったが、曲名からメロディはすぐ浮かんだ。
「じゃ、特別に・・」
ということで、半世紀も弾いていない、懐かしき『禁じられた遊び』を
弾き始めた。弾きながら、ああ、クロード・チアリはギタリストだったと思いだした。
曲が終わったら、その男性から拍手。
「ありがとう、素晴らしい、ありがとう」
お客様は喜んでおられたご様子。
リハであろうが本番中であろうが、お客様にとっては、今日、今がライブなのだ。弾ける曲をリクエストされて良かった。失望させるのが、嫌だ。
このピアノでの初ライブ。父も聴きに来られたらいい。
春に向けての活動準備をひとつひとつはじめていこう。