民俗学の領域には全くの素人であるが、世界の人々のその環境の違いや歴史による、固有の暮らしぶりや、そこから生まれる諸文化を見聞することは大変面白い。衣食住・言葉・音楽・宗教、あらゆる産業も民俗学的に研究の対象であり、
よく考えると、すべてコミュニケーションに関することである。
世界を見る、知ることの楽しみは、各地の人々の、自分とは違った世界観、生死観を知ることでもある。
たとえば、お墓。人が生きた後、その生の証を記すためのモニュメントである。その民俗固有の意味、カタチをもっている。
家社会である日本では、家族ごとの墓が多いが、死んでからその墓には入りたくない、と死後の自由を求める人もいて、(個人的にはそれにはどちらかというと賛成であるが)、散骨とか、風や水の流れに任せる方が、自分としては良いと思っているが、それはそれとして、墓という存在は、民俗学上、大変興味深いコミュニケーションツールである。
パリ、ボン、台北、ブエノスアイレスでは音楽家たちの墓を求めて歩いたことがあった。イブモンタン・イヴェットジロー、テレサテン、ベートーベンの母、シューマン、カルロスガルデール ピアソラ・・・・。
墓地として印象に強いのは、テレサテンの眠る墓。海を見下ろす高台にある高級墓地で、まったく暗さを感じず、また南米のそれも、比較的明るさを感じる、さすがラテンの国の墓地であった。パリやボンのお墓は、じめっとした日陰の土の上に静かに建つ石の建造物。
デザイン・彫刻的には大変興味深かったが、ちょっと怖い。
などなど、これまで訪ねていった墓は著名人の眠る墓である。
墓は、著名人だけでなく、一般の人も眠る。
このたび訪問した民俗博物館で、写真のような珍しいお墓の資料をみつけた。
ルーマニアのある村に林立する「陽気な墓」という。その人の人生の内容を表現しているお墓だそうだ。色・デザイン的にも哀しみよりも、親しみが伝わってくるものだ。
イラストと文字でもって、故人を表現する。
写真でなくイラストで表現するところが想像力が膨らんでいい。
こんな楽しいお墓だったら、散歩も楽しく、人生の終わりも怖くなさそうだ。
お墓ひとつとっても、民俗ごとの慣習や価値観が伝わり、大変興味深い。
長い歴史の間で、培われてきた文化。
時代が変わっても、ひとりの命を大切に思う気持ちは、大切にしなければと
思い、またどうすれば人生がより楽しくなるのかを考えるときに、他の地域の習わしはとても参考になる。
人は、亡くなると、物語になるのかな・・。
このお墓を見て、そんなことを思った。
みんな、その人生の主人公なのだから、この墓はとても素敵だ。
墓・・亡くなった人を偲ぶだけでなく、時間が経てばたつほど、
その人を思い出し、魂と対話するための、世を越えたコミュニケーション
ツールなのだ。